第3次ティアマト会戦(6)
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段バカな道化のような笑みを浮かべていた顔には、一切の感情が残っていなかった。乱れきった髪と、青白い顔。そして何より、その目だった。
??目が違う。
以前はこんな目をしていなかったはずだ、とフロルは思い起こしていた。こんな得体の知れないような、気持ちの悪い目ではなかったはずだ。フロルはそんな目を知らなかった。いったいその目にどんな感情が潜んでいるのか、それすらも読み取れない。
「パ、パストーレ中将……」
「私が半分に減らした残存艦隊で、君は何をするつもりなのかね」
パストーレは無表情のままそう言った。いつもの、まるで仮面を被ったような気持ちの悪い笑顔も浮かべず、まったくの無表情でフロルに問いただしたのだ。
フロルは既にパストーレという人間がわからなくなっていた。
5年前、彼がパストーレの第4艦隊を離れ、ビュコック提督の第5艦隊に行く前までは、絶対にこんな目をするような男ではなかった。
??ではこの5年でいったい何があったというのだ。
フロルはいつになく、手に汗が滲んでいることに気がついた。
??この男は、誰だ。
「リシャール准将」
パストーレの声に、フロルは混乱した思考を切り上げた。
「……残存艦隊5000をもって、帝国軍本陣に側撃をかけ、その隙に同盟軍艦隊は撤退します」
「だが、5000隻程度では敵を打ち破れまい。それに帝国軍が追撃をかけ、ハイネセンに長駆する可能性があるのではないか」
「帝国軍は今回の会戦で少なくない被害を負っています。ましてこの宙域は帝国軍の補給基地からも遠く、補給線は長く伸びきっており、長期的な作戦行動を可能にするものではありません。付近に駐留に適した惑星は存在せず、ここで同盟が撤退しても帝国が居座ることはないでしょう。同盟も帝国も、この戦闘の限界点に近づいているのです」
パストーレはまるで笑い方を忘れたような奇妙な笑みを、その頬に浮かべた。
「さすがリシャール准将。明晰極まる戦況分析だ。すると、君はその作戦目的のもと、私から指揮権を奪おうと言うのかね」
フロルは耳を疑った。
??奪う?
「……パストーレ中将は名誉の負傷を負われました。軍医の診立てでは現状況下においては作戦指揮も適わないと??」
「名誉の負傷だとッ!?」
パストーレは叫んだ。
「どこが名誉の負傷だ! 俺は自分の艦隊の半数をむざむざと食い破られ、俺自身はこの有様だ! おまけに旗艦はぶっ飛んで、こんな無様な姿を見て、どの口が名誉だとほざく!」
血の上った顔で、唾を飛ばしながらパストーレは叫んだ。
血の混じるような、叫び。
全身傷だらけで、そんな大声を上げれば、身体が痛まないはずはない。
だがそれすら忘れたように、パストーレは叫んだ。
「俺は、こ、これ以上、失敗するわ
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