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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(5)
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が撃破されるより前に、ラインハルトはこの戦いのメイン会場に行かねばならない。
 そのための小細工だった。

「無人艦部隊、所定の位置に到達! 超超短距離跳躍《ワープ》、作動しました!」
 通信士官がそう叫んだ。



***



 それは誰もが考えつきもしなかった、非常識な手段。

 目前に大質量の同盟軍第4艦隊の艦艇がいるにもかかわらず、約50隻もの重装甲の戦艦が跳躍《ワープ》したのである。
 後にこの戦闘詳報を読んだフロル・リシャールは、その恐ろしさに背を震わせた。彼の知っていた銀英伝の歴史において、この跳躍《ワープ》事故が起きた事態について覚えていたのだ。言うまでもなく、あのアムリッツァ会戦であった。あの時、退路を断たれたとパニックに陥った同盟軍の戦艦一《・》隻《・》がキルヒアイス艦隊の眼前で無謀にも跳躍《ワープ》し、その混乱によって帝国軍は同盟軍残存兵力を逃すことになったのだ。それだけ跳躍《ワープ》は多くのエネルギーを消費し、そして強烈な時空震を引き起こす。

 それがまとめて50隻弱。
 しかも故意に、引き起こしたのだ。
 眼前で敵の無人艦隊が忽然と姿を消した刹那、同盟軍の将兵のほとんどはその意味を理解していなかった。だが次の瞬間、その消失の意味を悟ったのである。

 同盟軍のオペレーターは、ほとんど悲鳴のような叫び声でこの危険を知らせた。艦の制御コンピュータは一斉に警告音を発する。前方の艦隊が消え失せ、それに伴った激しい時空震が到達したのは、わずか三秒後のことだった。
 第4艦隊はこの激烈で無秩序な波動によって、一挙に混乱の坩堝《るつぼ》に叩き落とされた。1隻ですらキルヒアイス艦隊を混乱に陥れた跳躍《ワープ》の50倍である。フィッシャーの名人芸とも言われた艦隊統率が、文字通り一瞬で破滅的に失われたのである。猛烈な波動は特に最前線の艦隊の衝突や接触を多発させた。紡錘陣形に備え、艦隊を密にしていたのが更に状況を悪化させたのだ。コンピュータ制御の衝突回避システムは<回避不能>の文字をディスプレイに映し出し、手動による艦体制御によって秩序を失った艦の動きを必死に押さえ込もうとする努力が繰り広げられた。磁気靴のスイッチを入れていない兵は激しく転倒し、入れていた者も飛び交う装備品や崩れ折れた柱の下敷きになった。各種センサーは一時的に、だが一斉に無効化された。各艦の重力制御装置にまで不調を来し、前時代的な無重力空間に陥った艦艇も多数あった。
 この状況下に、超超短距離跳躍《ワープ》に成功した無人艦隊が出現した。もっとも座標も進路の算定も粗雑に行われたものであったため、無事、出《・》現《・》できたのは跳躍に成功した44隻の内でも19隻に過ぎなかった。だが、その19隻の更に16隻は回避運動に悲鳴を上げている同盟軍
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