第3次ティアマト会戦(4)
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イナー・フォン・ノルデン少将だった。この男は、ラインハルトにとって取るに足らない男であった。軍隊もまた、一つの官僚組織であって、有能でなくとも上手く立ち回れば栄達できる程度のものでしかない、ということを認識させている。彼は彼の父が70歳になれば領地に戻って家督を継ぐ身であり、子爵家の長男として30代前半の若さでここまで栄達したことをその身の誇りとしていた。もっとも、それもラインハルトの前に来ればくすんでしまう程度のものであり、彼がラインハルトに抱く忠義心さえも義務のそれを越えていなかった。
少なくとも、先刻までは。
「私はしがない子爵家の男に過ぎませんが、その私をして武人の魂を震わせる感動を受けしめました! 皇帝陛下の御為に! なんという勇猛で感動的なお言葉であったか」
「……そうか、ノルデン少将が私の思いを汲み取ってくれたようで何よりだ」
「はっ! この戦い、微力ながら不肖、ハイナー・フォン・ノルデン、閣下のために粉骨砕身働かせていただきたく??」
「わかった、期待している」
ラインハルトはノルデン少将の賛辞を途中で遮って、控えさせた。その後、無言で右手を額に当て、頭を振ったり、それを見たキルヒアイスが慈愛に満ちた顔で彼の肩に手を置いたことなどは、比較的どうでもよいことであった。
***
「見てください!」
と言ったのは、指揮官席の一番近くにいた通信兵だった。情報分析のためにキーボードを叩いていたフロルは、すぐに通信兵が指し示した艦橋上部の巨大スクリーンに移った陣営図に目をやった。
見る見るうちに、正面の帝国2個艦隊の後方にいた1個艦隊がレーダーから消えていく。
「リシャール准将、どうやら儂らは正解を引いたようじゃな」
ビュコックが画面を見つめたまま、フロルに言った。駆逐艦がデコイを破壊しているのだ。これによって、帝国軍は事前の情報通り、3個艦隊であったことが確定した。戦術的な問題は、ここに奇襲を受けつつある第4艦隊、巧緻な攻撃引き継ぎと艦隊運動を強いられる同盟2個艦隊に限定された。
フロルは立ち上がって、戦場全体の情報を管理しようと躍起になっている通信兵の後ろに立つ。肩越しに見たディスプレイでは、慌てふためいてお世辞にも綺麗とは言えない同盟軍の陣形が、概形ではなく1艦1艦の点として表示されていた。それは一種幻想的な輝きに見えたが、徐々に消えゆく光が指す意味を、フロルは忘れることができない。
「第4艦隊は敵奇襲部隊と会敵したか?」
「ちょうど今、両軍の有効射程に入った頃かと」
フロルの問いに通信兵が答える。
「問題は、第4艦隊が持ちこたえられるか、ということだな」
フロルは誰にも聞こえないほど小さな声で、呟いた。
***
ラインハルトは第4艦隊
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