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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(4)
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密に酌み交わすだけの頭脳と協調性が必要であった。つまりは、このような状況下ではまず凡将を以てしてはなしえない戦術なのだ。
 だがラインハルトは自らならば可能であることを知っていた。
 そしてこの高度な作戦を成功に導くには、勢いこそが肝要であった。ラインハルトの的確な指揮と、叛乱軍を圧倒する苛烈な火力、それにはつまりは士気が高くなければ成功せず、そのためにラインハルトは彼の好まぬ士気高揚を目的にした訓示を行ったのである。かつて地球に存在した古代王国の軍師は、麾下の将兵を最も奮い立たせるのに何が適切か、その書物に記した。それは、将兵たちに『この戦いに勝利するしか、彼らの愛すべき故郷に帰ることはできない』と思い込ませることである。例え本来は勝たなくとも、いや戦わなくともいい戦いを、彼らが生き残るための死闘だと信じさせるのだ。それによって、将兵は自らが生き残るというもっとも単純で強烈な目的のために、己の力を最大限に発揮する。
 勝てる、と思わせるだけではいけない。
 勝たねば、死ぬのだ、と思わせるのである。
 つまりは、第6次イゼルローン要塞防衛戦の最後で、ラインハルトが用いた叱咤と、同じ類のものだった。
 今回の戦いは容易ではない。少なくとも、策を練って、あとはその通りに進めば勝てる、というような戦いにはなろうはずもなかった。
 皇帝の名を出したのは、ミュッケンベルガー元帥に配慮したという側面もあったが、より大きな理由は、士気高揚に手っ取り早く有効だからである。帝国臣民は良くも悪くも、現在に不満を抱きながら、皇帝という存在を神聖視している。それは帝国の長年に渡る宣伝と洗脳によるものではあったが、ラインハルトにしてみれば簡単に利用できるものだったのだ。もっとも、彼が昔のような頑強さや稚気を有していれば、例えそれが有効だとしても己の矜持に反するとして、決して用いようとはしなかった言葉であったろう。だが彼は既にかつての彼ではなかった。それを望んだ者は、誰もいなかったにも関わらず。
「ラインハルト様……」
「大丈夫だ。口先だけならなんとでも言える」
 キルヒアイスが話しかけたときには、彼自身の手によって遮音フィールドはオンになっていた。
「今は、勝つためです」
「わかっている。それくらいの分別はついているさ」
 キルヒアイスの心配げな問いかけにも、ラインハルトは氷の微笑をもって軽く受け流した。ラインハルトは自らの熾烈な帝国への憎悪はそのままに、それを覆い隠すだけの余裕と、精神的成長を手にしていたのだ。
 もっとも、その笑みが無機質的になったのは、ラインハルトが正直な人間であるということの証左であったろう。

「素晴らしい訓示でありました! ラインハルト中将!」
 そこに駆け寄ってきたのは、ラインハルトの参謀長としてこの戦いに従事しているハ
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