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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(4)
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網によって、フロル・リシャールが現在准将の階級にあること程度は、帝国の二人も知っていたのである。もしも、第6次イゼルローン要塞防衛戦で彼らを苦しめた人間に、フロル・リシャールの名前が加わっていることを知っていれば、二人は更にフロルを調査しようとしたに違いない。
「ならば、一応の注目をもってこれに対しよう」
 ラインハルトは玉座から優雅に立ち上がる覇者のような身のこなしで、ゆったりと指揮官席から立ち上がった。ただそれだけの所作であったが、旗艦タンホイザー艦橋にいる将兵全員の注意を集めるのには十分であった。
「我が艦隊に告ぐ!」
 遮音フィールドは既に切られていた。
「これより我が艦隊は敵右翼に突撃する! 敵は3個艦隊だが、帝国最精鋭の我が艦隊の敵ではない! 我々の進む先は前方にしか存在しない! 我らが目的は苛烈極まる攻撃で敵を撃砕することにある! それによってのみ、我々は勝ちを得るのだ! 皆、我が命に従ってこの戦場の勝者とならん! 皇帝陛下の御為に!」
 それに対する応答は、一拍の後に奔出した。その声を聞いていた艦橋、艦内放送で流された麾下の艦隊将兵すべてがその持てる声量の限り叫んだのである。皇帝万歳、帝国万歳、と。
 この言葉は後世においてもっともラインハルトらしからぬ戦闘訓示として有名となった。一つに、合理的かつ理性的できわめて優れた頭脳を有したラインハルトが、精神論的な激励を口にしたこと、もう一つにこのような戦略的重要性の低い戦いで後退を禁じたこと、更には皇帝の名を出したこと理由がある。
 これにはやむを得ぬ事情がいくつかある。
 一つに、今回において、ラインハルトはミュッケンベルガー元帥との共闘を余儀なくされている、という点である。ラインハルトは元帥を好んではいなかったが、それと実務上の借りを別にする理性は持っていた。 叛乱軍が強靱な陣を張っていたため、ラインハルト単軍、ミュッケンベルガー2個艦隊だけでは、状況を変化させられなかったのだ。それはラインハルトにとって忌まわしいことだが、共闘による武勲しか目指す選択肢がなかった。
 恐らく、ラインハルトがこの大役を見事成し遂げたとしても、ラインハルトの武勇のみでこの功を成し遂げた、という風にはできないであろう。今回の作戦が成功するときは、ラインハルトが成功して、それを任せたミュッケンベルガー元帥の卓見もまた認められるという展開しか望めなかったのだ。負けるときは互いが責を負い、勝つときは両者がその褒美に預かる。これがラインハルトを不愉快せさしめない訳がなかったが、今のラインハルトはそれを諾としたのである。勝つために、功を得るためならば共闘も致し方ない。
 そして、勝つためにラインハルトが選んだ戦術が、別働隊による側撃であった。これはこの別働隊に高度な統率力と攻撃力、そして本隊との意思を綿
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