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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(1)
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れしか道がないと思います』
「俺はおまえさんの戦術論を聞きたい。同盟は強固な防御陣を敷く。これを崩すに、帝国はどう動く?」
『全軍突撃、というのには厳しいでしょう。ティアマト星域の広さはそれだけの艦隊運動を許容しますが、帝国軍の練度がそれを阻みます。例えば、紡錘陣形による突撃攻撃には高い士気、十分な練度、そしてそれを統率できるだけの有能な指揮官が必要です。見るところ、練度に関して帝国はまだ不十分でしょう。第6次イゼルローン要塞攻略戦でもわかっていたことですが、どうやら訓練の質は同盟より帝国が下のようです。もっとも、そのミューゼル艦隊は別でしたが』
「それに指揮系統の問題もある。ミューゼル中将は確かに有能だが、ミュッケンベルガー元帥とは水と油だろう。ミュッケンベルガーは帝国の軍人気質そのものだ。成り上がりの小僧と仲良くできるはずがない」
『それは思い込みでしょう。ミュッケンベルガー元帥にそれだけの将器があるのなら、若造であろうとその手腕を大いに利用すると思いますが』
 ヤンは言ったが、フロルはそれでも悩んでいた。原作におけるこの時期のラインハルトは、高慢稚気の固まりだった。ミュッケンベルガーを愚か者として嘲笑していたような男だ。例えミュッケンベルガーにそれだけの将器があっても、ラインハルトがそれに従うのだろうか。
『あるいは包囲を試みるかもしれません』
「それは無理だ。帝国と同盟は同数だ。包囲すれば艦列が薄くなりすぎる。同盟は簡単にそれを打ち破れるぞ」
『いえ、完全な包囲網ではなく半包囲の形で半月形の陣形を取り、両翼のスイッチ攻撃で同盟の出血死を狙うのです』
 それはヤンがアムリッツアの撤退戦で用いた作戦であった。あの時は撤退する側として用いていたが、それを攻撃側で使用せん、ということらしい。同盟が戦列を立て直すために一端後退する隙に、追撃をかけるのも有効だろう。
「なるほど、なかなか手堅いな。囮の部隊でもって同盟の背後に回り込み、そのまま同盟領に侵攻するように見せかけるのもいい手じゃないかな」
『戦力分散の愚を看過すれば、確かに同盟軍の混乱は起きるかもしれません。ですが、この場合、敵領内に侵攻しているのは帝国であって、同盟にその類の心理的な揺さぶりは効果的ではないでしょう』
「うーん、そうだなぁ」
『敵はこちらが耐え切れないだけの損害を出すことを作戦目標とするでしょうから、実は両軍とも敵の消耗を狙うことになるんです。つまりは消耗戦に陥る可能性が大きい』
 考えれば考えるほど、意味のない戦いだった。戦略的に何の意味もない消耗戦を戦術的な目標に据えるとは……。


 通信を切ったのは、更にその一時間後のことだった。
『ただ、先輩、一つだけ、忘れないで下さい』
 フロルは通信停止のスイッチから、ヤンに視線を戻した。ヤンは固い表
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