第3次ティアマト会戦(1)
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はぁ……』
「じゃあもう一つ、ヤンならどうする?」
『私なら、ですか?』
フロルはかつて、こう言った問いかけをよくヤンにしたものだった。ヤンにしてみれば、フロルとのこんな些細な思考実験が楽しいと思ったこともある。ヤンが戦術に興味を持ち始めたのも、フロルとのこうした会話がきっかけであった。
??それが、あのエル・ファシルにも役立っているかもしれない。
ヤンは7年も前になったエル・ファシルを思い出した。かつて、フロルとの会話で包囲下における脱出作戦について語り明かしたことがあったのだ。
??そんなことはありえないんだが、フロル先輩はああいった事態まで想定していたのかもしれない。そう、エル・ファシルの時だって、何も私じゃなくて、フロル先輩でも同じようにやってのけただろう。
フロルのヤンに対する働きかけが、かえってヤンのフロルに対する評価を上げていることを、フロルは失念していたのだった。
「そう、おまえさんが帝国軍の宇宙艦隊司令長官であらせられたら、今回の戦いをどうする」
フロルは皮肉な笑みを頬に浮かべながらヤンに問いかけた。
『私なら撤退ですね』
そしてその応えを聞いてより一層、笑みを深くする。
『今回の帝国軍の軍事行動には明確な軍事目標が見当たりません。戦っても、得るものが少なすぎる。私なら、無駄なエネルギーと人命の使い捨てはしませんね』
「だがおまえさんは軍人だ。上から命じられれば、やらねばならないのでは?」
『それはそうでしょう。民主国家の軍人は文民統制が原則ですから。ですけど、いくらなんでもそんな非合理的な作戦案が同盟で行われることは、ないと思いますが』
「それは、どうかな……」
フロルはアムリッツアを思い出していた。あれこそ、非合理と理不尽の間に生まれた私生児なのではないか、と。
『帝国軍ならばあるいはそんなこともあるかもしれません。特に儀礼的な軍事行動の場合、私は敵戦力の殲滅ではなく、撤退を目標とするでしょう。同数の艦隊ならば、敵を叩き、お互いがそれなりの犠牲を出したのち撤退する。もし可能ならば、同盟が敗走するような状況にまで追い込み、その心理的勝利を糧に帰っていくでしょう。帝国軍にはこのまま同盟首都に侵攻するだけの余力はありません。つまるところ、最大の勝利を得られたとしても、それはティアマトでの局所的な勝利に留まるのです』
「だが同盟にしても、戦わずして引くことはできない。ある程度の犠牲を帝国に出さねば、片道切符で帝国軍が侵攻し続けるかもしれない。いや、首都は無理にしても、同盟と帝国の境界線上にある惑星を占拠し、前線基地でも作られたら厄介だ。作戦を先延ばしにするのも、ここいらが限界だろう」
ヤンは一つ頷いて、腕を組んだ。フロルも、足を組み直す。コーヒーが欲しいところだった。
『戦略的にはそ
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