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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(1)
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皇帝の寵姫とその一族への重用が国を傾けて、その結果に大乱が起きる前例がいくつもあるのだ。それだけ、寵姫の家族は力が集まりやすい。もっとも、凡人が力を得ただけならば、それは恐怖ではない。脅威ではない。だが、あの第6次イゼルローン要塞攻略戦で際立った艦隊運動、戦術眼、戦略眼を見せたあの敵司令官が、そうした特権を授かる立場の人なのだとしたら、それは天才が権力を握ったということに他ならないのだ。それは十分に脅威だった。

「ヤン、あの男が敵艦隊にいる。どう出ると思う?」
 ヤンはそのフロルの問いに、苦しそうな顔をした。ヤンにしてみても、そのラインハルトなる敵士官と戦ったのはあの時が初めてだったのだ。フロルがヤンのオフィスに来て、ヤンがその狐を捕らえる罠を考案した、あの時が。時間は短く、ヤンがラインハルトの思考を読み取るには足らなかった。ヤンはまだ、ラインハルトの能力を完全には理解できていなかったのだ。
『わかりません』
「わからない?」
 フロルは思わず声が高くなりそうになるのを、必死に抑えた。
『私はそのラインハルトという男について何も知りません。前回の戦いで、彼の艦隊運動を見てその練度は理解しています。戦術的にも、戦略的にも、相当な能力の持ち主であることも。ですが、それでその男の考えを読み切るのは、さすがに無理ですよ』
「……それもそうだな」
 フロルも頭を軽く振った。ヤンとて全知全能の神ではなかった。フロルはヤンの今後の活躍を知っているため、思わずそう考えてしまいそうになったが、ヤンは超能力者ではなかったのだ。
『もしかして、そのことを聞くためにわざわざ超光速通信を?』
「わざわざ、というほどでもない。だが、俺が一番信用している用兵家は、ヤン・ウェンリーという男だからな」
『それは買いかぶりですよ』
 ヤンはしまらない髪型の黒髪をかいたが、その表情には困惑の色も混じっていた。ヤンにしてみれば、自分と同じくらい、もしかするとそれ以上にフロルという男は戦術家としての能力に富んでいると考えていたからだろう。フロルはヤンの先輩であり、士官学校時代、彼に戦略研究科で色々便宜を図ってくれたのもフロルだったのである。ヤンが読みたい、閲覧したいと思った資料は全てフロルが上級生の特権で見せてくれたし、何をどうしたのか秘密裏に戦術研究コンピュータを使わせてくれたこともあった。ヤンが戦術研究科に転科してフロルが卒業するまでの期間、一番シミュレーションの相手になったのはフロルだったのである。つまりヤンにしてみれば一番相手の考えが読めるのはフロルであって、その上でフロルの有能を知っていたのだ。
「ヤン、おまえさんはどうにも人が良すぎる。そして自分への評価がまだ甘い。それは謙虚として美徳に上げるべきところなのかもしれないが、もう少し気をつけた方が良いよ」

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