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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第3次ティアマト会戦(1)
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北を喫すれば何人かの首が物理的に飛ぶのは確実でしょう』
「すると司令長官のミュッケンベルガーあたりは、それこそ本気で頑張るのかな」
『それもどうでしょう。彼の元帥閣下は帝国でも無類の勇名を誇っています。例え負けても、一度で殺されることはないと思いますね。だからこそ、彼の下についている艦隊司令官あたりが危ない。その能力を最大限に発揮して、勝とうとすると思いますよ。まぁ、もっとも、一般将兵にしてみれば皇帝のお祝いのために命をかけて戦争をさせられるわけですから、決して士気が高まる要素とはなりえないかもしれませんが」
 ヤンは悲観が過ぎたと思ったのか、最後に気を休めるように言葉を付け加えた。だがフロルは考えていた。帝国からすれば、これはただの威圧的軍事行動ではない。ある程度の勝利が約束されねばならない、儀式なのだ。ならば、その意味を理解している高級士官たちはそれこそ必死に勝ちを手に入れようとするだろう。
「ヤン、第6次イゼルローン要塞攻略戦を覚えているか?」
 フロルは一つのことを確かめるようにヤンに話しかけた。
『そりゃあ、そこまで私の記憶力も退化はしてませんよ、先輩』
「ではあの小賢しい敵、徹頭徹尾同盟軍をおちょくってくれた分艦隊を覚えているか」
 ヤンはこの言葉で既に察したらしい。顔色が変わった。
『あの分艦隊がまたいるのですか?』
「いや、分艦隊ではない。一個艦隊だよ」
『え?』
 ヤンは驚いたように声を漏らした。
「帝国は専制君主国だがら筋の通らない話も多いらしいが、逆に言えば実力のある者が寵愛を受ければ簡単に栄達できるシステムだ。前、あの分艦隊を指揮していた男は、前回の戦功によって中将に昇進している。そして恐らく、一個艦隊を率いてティアマトに来るに違いない」
『……誰だか、わかったんですか?』
「ラインハルト・フォン・ミューゼル」
 フロルはその名を言った。全宇宙を手に入れんと同盟に立ちはだかる若き獅子の名前。ローエングラムの姓をまだ持たず、ブリューンヒルトもまだ下賜されていないであろうラインハルトの名前。本来なら、もっと後の戦いで、ヤンが知るべき名前であった。生涯ヤンと同盟に立ちはだかる者の名前なのだ。
 だが、フロルはその名前を明かした。
 ヤンはその名前を自分の記憶のデータベースに照合させたようだった。数秒の沈黙の後、上げた顔には驚きの感情が見えた。
『ミューゼル……確か今の皇帝の寵姫、グリューネワルト伯爵夫人の前の名前は??』
「アンネローゼ・フォン・ミューゼル。そう、その通りだ。彼は皇帝の寵姫の弟だ」

 ヤンはその事実に背筋を振るわせたように見えた。それは嘲りによってではないだろう。いかな民主主義国家に生まれ育ったヤンでさえ、その地位がどれだけ利権と特権に溢れているかは想像に容易かった。古代中国には
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