第3次ティアマト会戦(1)
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というものがあった。
そこで、彼は超高速通信をハイネセンに繋いだ。
無論、相手はあの男である。
「ヤン、久しぶりだな」
『そうでしたっけね』
ディスプレィの奥で、ヤンは苦笑いをしながら敬礼をした。ぼさぼさの黒髪は寝癖でところどころ跳ねていたが、この時間まで起きていたのはフロルがラオ少佐経由でヤンに連絡していたからである。おかげで、本来ならば時間外である超高速通信も特例で使えるようになっていた。いったいどのような工作がラオ少佐によって行われていたが、フロルは詳しい説明こそ聞かなかったが、彼が有能であることは疑いようもなかった。
『それで、先輩、どうしたんですか。わざわざ私をこんな時間まで残業させて』
「それくらいいいだろう、ヤン。給料分だ」
『私の労働時間は定時までのはずなんですけどね』
ヤンはそこまで言って笑みを消した。
『グランド・カナルのことは聞きました。……危なかったそうですね』
「ああ、間一髪だったよ」
フロルは苦みのある表情のまま、肩を竦める。
『こっちではその話題で持ち切りですよ。ロボス元帥はかなり矢面に立たされてます。逆に駆けつけたビュコック提督の英断が褒めたたえられているようで』
「それは提督に申し訳ないことをしたなぁ」
ヤンはそれに一つ頷いた。
恐らく、軍部の責任追及の手を緩めるために、功労者としてビュコックをもてはやしているのだ。それはビュコックからしてみればありがたくない奉賛の声だろう。彼は正しいと思った行動を、彼の軍人の矜持に従って執り行っただけなのだ。その行動に跡づけの道徳心やら美辞麗句をあてがわれても、あの老提督は眉を顰めるだけだろう。
『シトレ校……じゃくなくて元帥は、これを機にロボス元帥の力を削ごうとしているみたいです』
「まぁ予測できる範囲だな」
フロルは頷いた。シトレとロボスは統合作戦本部長の椅子を狙って四半世紀に渡って争い続けていた間柄だった。今回のような明らかな失点を、シトレが見逃すはずはなかった。
フロルは基本、シトレ派の人間である。いや、それを言うのであればヤンもキャゼルヌもシトレのシンパだろう。彼らには共通点があった。言うまでもない。みな、士官学校時代、大なり小なりシトレの薫陶を受けているのだ。シトレは優れた校長であり、優れた軍人であり、優れた人格者だった。彼らが今日も抱く理想の軍人像にシトレが与えた影響は小さなものではなかったのだ。
対するロボスにしてみても、多少大雑把なところがあったが、名将の器の人間であった。その長い軍歴において、彼の能力が、求められる職務に対応できない事態はなかったのだ。だが、そのロボスもここ数年でそれに翳りが見え始めていた。作戦指示、特に戦況判断の遅れや、事態認識の楽観視に拍車がかかってきていた。フロルはまだ証拠こそ手に
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