第3次ティアマト会戦(1)
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だったが、かといって神の存在や歴史の修正力といったものは信じていなかった。あるいは、フロルの前世の記録は幼少期に形成された嘘の記憶かもしれないのだ。その記憶が本物である、という証明は今となっては、宇宙暦795年となってはできようもないのである。だから、彼は悩まず前向きに考えるようになっていた。自分は確固として生きている。ならば、自分が動けば歴史も変わる。
裏を返せば、それだけの思考力や頭脳が自分に備わっているという自信の発露だったのかもしれない。フロルには、自分が歴史を変えられるという無意識の確信があって、少なからずそれを証明する作業でもあったのだ。
そこでフロルは、起こりうる事象をフラットに考えていた。
ホーランドがいなくなったこの戦い、本来第11艦隊がいるべきところにはパストーレ中将率いる第4艦隊がおり、勘違い男がいなくなったおかげで指揮権もビュコック提督がしっかりと掌握している。同盟軍としては、同数の帝国軍に手堅い防御陣で対し、帝国の出血を強いる、というのが大まかな作戦目標であった。これはフロルも賛同するところである。敵軍は三個艦隊とはいえ、ミュッケンベルガーとラインハルトが所属するのだ。ミュッケンベルガーは別にしても、ラインハルト艦隊の脅威は無視できないものだった。ラインハルトは本来の歴史では、会戦の最後の最後まで戦闘に参加しなかったが、ホーランドという自信過剰者がいなくなった今回、いったいどんな行動を示すのか、フロルにも見当がつかなかった。
順当に考えれば、ミュッケンベルガーの指揮する範囲で、艦隊規模の巧みな手腕を見せつける、程度の活躍しかしないだろう。ミュッケンベルガーとラインハルトには大きな亀裂があり、両者が手を取り合って戦いに臨むのはまず考えられないからである。すなわち、警戒すべきなのはラインハルトの艦隊運動であり、ラインハルトがいかに行動するかにあった。
とはいえ、ラインハルトは勝てる戦を勝つ男である。その奇術詭計は万人の及ぶところではなかったが、彼自身それを望んで用いたことはないはずである。一つに、戦いは勝てる準備をして望むのが戦の常道であり、少数で多数を破らんとするのは邪道であって、破滅の道だったからだろう。ラインハルトやヤンはそれを誰よりも良く理解しており、ラインハルトは常に大軍で少数を破った男だった。ヤンはそれを知りながら、少数で多数を破る戦術的勝利を積み重ねた苦労人である。両者は対極に位置するようで、戦略的戦術的思想には非常に似通ったところがあるのだ。
フロルにはそれがわかっていたから、ラインハルトならどうするか、という思考迷路とともに、ヤンであればどうするか、という思索も重ねた。ヤンはかつて、ミラクル・ヤンと呼ばれたほどの用兵家であり、その手腕は銀河一である。だがフロルはヤンではない。限度
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