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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
歯車の軋み
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ちは、負ければそれに反発してより偏屈になるのが普通である。それに比べて、負けを認めて自らの糧としようとするミューゼルの姿勢は立派であった。だからこそ、かの者は普通ではないのだろう。

 日記にある。
『あの金髪の青年が、これからいかような人生を歩むか……。万人が羨む宇宙艦隊司令長官たる我が人生であっても、彼の者は満足するまい。あれは虎の目だ。それも英才で獰猛で勇猛で覇気に溢れた虎の目だ』

 だから、情報分析レポートを読みながら、ミュッケンベルガーが思い浮かべている顔もまた、ミューゼルの顔であった。
 情報分析から読み取れるのは、今回の戦いが凡庸に進めば、まず勝ちを得られないことである。
 叛乱軍の老将ビュコック中将率いる三個艦隊は、老練の名にふさわしい強固な防御陣を引くだろう。彼らの作戦目的は帝国の軍隊を撤退に追い込む、という明解極まるものなのだ。
 それに対して、帝国軍ままともな軍事目的すら持たず、ただ漠然と攻めるばかり。防御を固めた叛乱軍に、遠征の疲れも癒えぬまま対することになるのだ。
 このような場合、帝国軍がとりうる戦略は奇襲によって敵の防衛陣を破壊するか、なんらかの奇計で敵を崩すかであった。それには自らの艦隊を手足のごとく扱えるだけの優秀な艦隊司令官が必要だった。
 そして思い浮かぶのは、金髪の孺子だったのだ。
 ミュッケンベルガーはミューゼルが嫌いだった。だが、傲慢さと強情さが薄れて、その感情も薄れてきた。ともに同じ軍事組織にいるのなら、その手腕を利用しようと思えるくらいには評価が上がったのである。
 そこで、ミュッケンベルガーは作戦会議を前にして、副官にミューゼルを呼ぶように指示をした。
 ラインハルト・フォン・ミューゼル中将は3分後、その部屋に姿を現した。



***



 イヴリンは酸素マスクを口にあてがわれ、ベッド横には心電図のモニターが確かなグラフを刻んでいた。美しい褐色の肌にはそれでも多少の疲れが見えて、フロルは彼女の頬を軽く撫でた。
「ごめんな、イヴリン」
 フロルはそっと囁いた。聴こえてないことを承知で、彼は言葉を紡ぐ。
「俺がもっと早くやって来られたら、イヴリンは怪我をしなくて済んだんだ」
 フロルはベット横の椅子に座る。かつてイヴリンがしてくれたように、イヴリンの右手を握る。
「本当に、ごめん……」
 フロルはその右手に額を当てた。部屋はイヴリンの士官用の個室である。ひっそりとした中、フロルは胸の痛みを感じていた。
「私は大丈夫よ」
 そのフロルの頭に、そっと手が置かれた。
 フロルが顔を上げると、こちらに微笑みかけているイヴリンの顔が見えた。
「イヴリン……もう大丈夫なのか?」
「ええ、鎮静剤も切れたみたいね」
 イヴリンは優しく笑っていたが、どこか
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