歯車の軋み
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はできても、近頃のように頻繁に大規模会戦がある時期に余分な戦闘をしたくはなかったのだ。
ヴァンフリート会戦でも第六次イゼルローン要塞防衛戦でもミュッケンベルガーは快勝できなかった。だが、彼は自分が大きく間違ったからであるとは思っていなかった。
同盟が強かったのである。
このことは誰にも言っていなかった。それは当然である。宇宙艦隊司令長官たる者が叛乱軍ごときの力を評価しているとしれれば、彼の反対勢力が彼を放ってはなかっただろう。だが、それでも彼は言い知れぬ不安を抱いていた。ここ数年の同盟は、明らかに今までとは違う。そして帝国も。
彼はこの時期、自らの日記にこう書き記していた。
『同盟が、いや帝国が、いや時代が変わろうとしている』
これは、彼がいかに明敏な男であったかを証明するものだったろう。
だが既に、彼の不安は形となって姿を現している。
??ラインハルト・フォン・ミューゼル。
皇帝の寵姫の弟。
金髪の孺子。
スカートの中の中将。
成り上がり者。
ミュッケンベルガーはそのいくつもの蔑称を知っていた。自身も他の貴族の前ではそう呼んでいるものさえある。だが、その反面、その実力を軽視はしていなかった。
あるいはかの者であれば、今回の出兵の愚かさ、無意味さを理解しているであろうとも考えていた。それだけの能力があの男にはあるのだ。逆を言えば、これだけのことを理解する能力がない者が多すぎる。
今回の出兵に際して連れてきた幕僚のいったいどれだけが、今回の作戦行動の不条理さに気付いているだろう。恐らく、大半は『皇帝陛下の栄誉』という大義名分だけですべてが上手く行くと思っている。だが軍事とはそんなに生易しいものではなかった。
正しい行動方針の下、情報、補給、人事、通信・電子といった各種の分析を経て、軍事行動計画、作戦計画、補給計画、基地建設検討、不測事態対応計画といったいくつもの計画を発案し、更に細かい後詰めの作戦命令をも出すのだ。消費される金額、エネルギー、労力に至るまで仔細に計算し、それをもって艦艇35400隻を動かす。
にも関わらず、今回の戦いに目的はないのだ。
適当に戦い、適当な勝ちを得る。
ミュッケンベルガーに若さがあれば、不平不満を零さずにはいられなかったろう。
??つまりは、ミューゼル中将は若いだけなのだ。
ミュッケンベルガーはそう思っていた。だが、そのミューゼルも、第6次イゼルローン要塞防衛戦から様子が変わった。恐らく、一度負けを経験したからだろう。彼は生きているが、気鋭極まるミューゼルならば、自らが一度は負けたことを理解し、受け止めているだろう。だからだろうか、彼の瞳に、深慮の光を見るようになっていた。
ミュッケンベルガーは内心、それに感心した。
若いう
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