歯車の軋み
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ック中将かウランフ中将のいずれかがその任を務めるであろう。この二人は脅威だった。ビュコック中将は民主主義国家の軍隊ならではの二等兵から叩き上げの将である。その老練さは、帝国のメルカッツ中将と並ぶとも称される。ミュッケンベルガーも、先のヴァンフリート会戦で相対し、手強いと感じた老将であった。対してウランフ中将も、騎馬民族の末裔としてその勇猛さと巧みな艦隊指揮によって勇将の名を欲しいままにする同盟の優れた将だった。
そもそもミュッケンベルガー自身も、今回の出兵には思うところが大きかった。
オーディンの軍務省で軍務尚書エーレンベルク元帥や統帥本部総長シュタインホフ元帥の口から、この出兵案を聞いた時からはっきりせぬ不満を抱いていたのである。
それは今回の出兵の目的、戦略上の遂行目標がどこにあるのか、それがまったく示されていなかったからである。恐らく今回の出兵は皇帝フリードリヒ4世の側近、国務尚書のリヒテンラーデ侯あたりから出てきた案であろうことは、ミュッケンベルガーにも容易に察せられた。まさに軍の人間でない者が発案したであろう非生産的な出兵計画なのだ。つまるところ、今回の出兵は軍事的成功によって皇帝の在位30周年に花を添えんというだけのものであった。無論、ミュッケンベルガーほどの男ならそのことは理解している。
そもそも帝国軍における軍事行動には大きく分けて二つの種類があった。
一つは、同盟軍の積極的な出兵、あるいは挑発行動に掣肘を加えんとする純軍事的な撃滅作戦。
そしてもう一つは、帝国という国家が求める儀礼的な軍事作戦である。
ゴールデンバウム朝銀河帝国で出世するには、その両方を取り違うことなく執り行う忍耐と正確さが要求された。つまり軍事的に強いだけではなく、戦争という演劇を見事に華やかに執り行う演出家としての技能も必要とされたのである。
ミュッケンベルガーにしてみれば、自らの姿態もまたその演出の一つだった。半白の眉と半白の頬ひげ、堂々たる体躯《たいく》、非の打ちどころのない正しい姿勢は、彼を管弦楽団の指揮者としてふさわしいものにするためのものなのだ。強ければ良いというものではない。華麗であれば良いというものでもない。銀河帝国の宇宙艦隊司令長官という職が、この容姿を要求したのである。
ミュッケンベルガーにしてみれば、メルカッツ中将などが後者をこなせるようになれれば、すぐに後継に足りると見ていた。だが、メルカッツはよくも悪くも無骨な軍人。そこだけがメルカッツの欠点なのである。
ミュッケンベルガーはだが、儀礼的軍事行動が嫌いであった。彼は自分が軍人であることに矜持を抱いているのだ。こなすべき義務とわかっていても、それを愉快にできるわけはない。大規模な会戦がここ数年ないから、この辺りで攻めろ、というのならばまだ理解
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