歯車の軋み
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いんだ……」
フロルは拳を床に叩き付けた。鋼鉄の床は、硬く、そして冷たかった。
「じゃあ、私の目を見ながらでもそう言える?」
俯いていたフロルにも、その声が誰かはわかった。
「イヴリ??!」
振り返った先にはイヴリンがいた。
右腕が千切れ、頭が半分潰れて、左足が炭化していた。どう見ても、死んでいる。
「あなたが、私を殺したのね」
かつてイヴリンだったものは、動くはずのない口を動かして、そう言った。
「違う、違うんだイヴリン!」
「いいえ、違わないわ、フロル。フロルは私がこうなるかもしれないことを知って、それでもあんなことをしたのよ。フェーガン艦長だって、まだお子さんは幼稚園なのよ? 死んだ100人の乗員だって、みんな家族がいて、恋人がいて、死を悲しむ人がいたのよ? あなたはそれを見殺しにしたのよ」
フロルはよろめきながら立ち上がった。イヴリンに歩み寄る。
「違う、将というものは、いかに兵を殺すかなんだ、イヴリン。ヤンだって言っていた。用兵とはいかに犠牲を出すかだって。俺はもう准将だ。同盟が勝つためには、絶対に??」
「私はそんなことのために殺されたのね」
イヴリンは半分だけの顔で、嘲笑を浮かべた。
「そんなこと……?」
「私は、あなたを信じていた。あなた、私が最期の一瞬に、何を考えていたのか、わかる? 助けて、フロルって、そう願ってたのよ?」
フロルは言葉を紡ごうとして、口を開いたが、言葉が出なかった。
「信じてたのに、私はあなたを信じてたのに。あなたもサローニとなんにも変わらないのね」
それはイヴリンからすれば最大の侮辱だったろう。フロルにとっても、最大の侮辱だった。
「違う、俺はサローニのようなクソ野郎とは??」
「違わないわ。女を自分のために使い捨てたんでしょ?」
「そうじゃない! 俺は本気でイヴリンを愛して??」
「触らないで」
フロルがイヴリンに差し伸ばした手は、その言葉で止まった。
「俺は、本気でおまえのことを??」
「フロル」
イヴリンは崩れ切った顔でこちらを見た。
「あなたは、誰を救いたいの?」
覚醒。
呼吸。
冷や汗。
呼吸。
拳が痛いほど握られていた。
涙。
心臓。
鼓動。
目から涙が止まらない。
口を開く。
声。
心臓が痛い。
首。
声が出ない。
呼吸が乱れている。
強ばった首。
フロルは、両足を床につけた。ひんやりとした鋼鉄の床。
頭を抱える。
「イヴリン……」
ようやく声が出て、フロルは手を口に当てた。嗚咽が漏れる。だが、空っぽの胃は、キリキリと痛むばかりで、何も吐き出すものはなかった。
悪夢だった。
だが、荒唐無稽の悪夢ではなかった。
そして過去最低の
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