グランド・カナル(下)
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顔に剛胆な皮肉を漲らせた。
「なるほど、絶体絶命のヒロインを救い出すヒーローというわけか」
「さらにロボスに恩も売れて、第5艦隊にも俺にも一石二鳥だ」
「そのためにイヴリン・ドールトンが怪我をしてもか」
「……それは予想外だった。もう少し早く駆けつけられるはずだった」
「策士は策に溺れると相場が決まっている。おまえもいつか、何かを失うぞ」
シェーンコップのそれは、友人としての忠告だったろう。だがフロルにしてみれば百も承知だった。イヴリンが死なないように、全てを計算して動いていた。詳細に計算していたグランド・カナルの航行予測と、綿密な索敵網から得た敵偵察部隊の合流点を割り出し、艦隊を動かしていた。そこに誤差があったとすれば、グランド・カナル率いる輸送船団の隠密運動がフロルの情報収集を困難にしたのだ。あと、少し遅れていれば、イヴリンは死んでいただろう。
「その時は、俺も死ぬ」
「……すべてを残してか」
「ああ、イヴリンが俺のせいで死ぬなら、俺は命を絶つよ」
シェーンコップは理解不能なものを見るような目をしていたが、諦めたように息をついた。
「ようやくわかったよ、フロル。あんたは軍人じゃない。ただの狂人だ」
「俺は俺の守りたい者のためにこの人生を生きている。それを守りきれないとわかった時は、俺に生きている価値はない」
フロルは本気だった。冗談は言っていなかった。彼は自分がイヴリンの命を自らの権力拡大に利用したことを理解しながら、彼女を自分よりも大切な人間として理解していたのだ。それこそ、自分の命よりも、もっと。そしてそれだけ、今回の一手はロボスにとって致命傷になりかけないものだったのだ。経団連を動かしたのはフロルが指示した情報部のおかげだった。マスコミも軍部の醜態を隠さんとするトリューニヒトに先駆けてすっぱ抜いた。しかもすべての責任がロボスにある、というように情報を操作し、軍部におけるロボスの権力を弱めた。きっと将来、アムリッツァのような無茶をするだけの力は残っていないだろう。
「ああ、シェーンコップ。きっとこの防衛戦が終わったら、薔薇の騎士は第5艦隊を下りることになるよ」
シェーンコップは耳を疑った。フロルがさらりと切り出したこともある。だが、既に薔薇の騎士は第5艦隊において白兵戦部隊として中核を成している。他の陸戦部隊も引き連られるようにその力を増していたが、それでもここで抜けるのは戦力低下にしかならないはずだった。
「……どういうことだ、フロル」
「今回の物資浪費の件でね、薔薇の騎士の責任が問われることになった」
刹那、目にも留まらぬ早さでシェーンコップは机の向こうのフロルの胸ぐらを掴んだ。それは怒りによってだろう。だがシェーンコッ
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