グランド・カナル(下)
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り留めている。他の負傷者も、人工臓器やサイボーグ技術、再生医療によって命を失うことは避けられそうであった。
薔薇の騎士連隊隊長、ワルター・フォン・シェーンコップ大佐がフロル・リシャール准将の首席幕僚室を訪ねたのは、日付も変わった2月7日0213時のことだった。
「おい、フロル」
フロルは手元の書類から目を離さない。今回の一連の想定外の艦隊航路によって生じた誤差を処理しているのだった。余分にかかった燃料弾薬食糧の算出、遅れを取り戻すための最短艦隊運用計画の立案、することはたくさんあったのだ。
「なんだ、シェーンコップ」
「おまえさん、いったいなんのために戦争をしている」
フロルは怪訝な顔をして、シェーンコップを見た。
「何って、俺のためだろ」
「俺が聞きたいのはそういうことじゃない」
「俺は俺の守りたい人のために戦ってる。おまえさんは違うだろうがな」
フロルは皮肉げな笑みを浮かべたが、シェーンコップは笑わなかった。
「おまえ、グランド・カナルの航行予測に手を加えたな」
フロルは表情を消した。
「なぜそれを知っている」
「やはりか、タイミングが絶妙すぎると思ったんだ」
シェーンコップは吐き捨てるように言った。それでフロルは鎌をかけられていたことに気付いたが、焦るような顔はしなかった。
「おまえ、グランド・カナルが敵とぶつかるのを待って、救出したな。どういう了見だ」
「……だからシェーンコップ、おまえみたいのは厄介なんだよ」
フロルは大きく溜め息を吐いた。右手のペンを放り投げる。椅子の背もたれに体重をかける。椅子が音を立てた。
「フロル、おまえは味方を救出したという筋書きが必要だった。味方を救い出すのに命令書はいらない。第5艦隊が当初の命令を無視して動いたことを事後正当化するつもりだったのか」
「惜しいな。正確には事後正当化じゃない」
フロルは開き直ったように笑みを浮かべる。
「2月3日時点で今回の民間輸送船団の護衛部隊が離脱したことはハイネセンのマスコミに流れていた。同日、自由惑星同盟経済団体連盟、自由惑星同盟商業組合、自由惑星同盟運輸産業協同組合が同盟軍に対して遺憾の意を表明。新聞やテレビには一斉に軍の無責任に対して非難が集まった。これが3日の午前11時段階だ。後方勤務本部長が宇宙艦隊司令ロボス元帥に護衛部隊再出撃の申し入れをしたのが昼過ぎ、グリーンヒル大将からの言を聞き入れ、ロボス元帥は4日に遅すぎる救援部隊50隻をハイネセンから発進させた。また7日には統合作戦本部長令で第5艦隊に指令が下される予定だった」
「……おまえ、最初から手を回していたのか」
「こういう時のために蓄えた力だ」
「こういう時?」
「自分の女が窮地に陥った時だ」
シェーンコップはその
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