グランド・カナル(下)
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「はい」
??大丈夫。
??私は大丈夫。
イヴリンがそう念じた時だった。
レーダーを見つめていた通信兵が、声を上げたのだ。
「前方に未確認艦影! 数ひと……二つ!」
「敵か、味方かッ!?」
フェーガンがすぐに叫ぶ。イヴリンも前方のスクリーンを見つめる。最大望遠されたディスプレイには、光の粒が見えた。
「て、敵ですッ! 巡航艦2隻!」
それはほとんど悲鳴だった。恐れていた事態、想定され得た事態、そして軍部が招いた事態。
フェーガンは即座に判断を下した。同等の性能を持つ巡航艦同士で、2対1で戦えば勝つことなどできない。このままでは、ただの一方的な虐殺になるだけだった。ならば、持てる全ての力を注ぎ込み、民間船を逃がす。
「大尉」
「わかっています、少佐。一隻でも多くの船を」
フェーガンはそれに頷く。
既に覚悟はできていた。
「輸送船団長に繋げ」
今回の編成は通常から大きく外れたものだったため、指揮系統が複雑になっていた。民間の輸送船団に船団長が一人いて、護衛艦の指揮官はフェーガン少佐、輸送に関する担当官としてドールトン大尉となっている。
そして画面に立派な髭を生やした艦長が現れた。ともすれば、フェーガンよりも威風があったろう。彼らは、誇り高い商人だった。
「フェーガン少佐、どうやら時が来たようですな」
「はい、前線までお届けできず、申し訳ございません」
「今回の件において、我々商人は同盟軍に大きな不満を持っている。だが、グランド・カナルの皆さんに対してはない。むしろ、感謝している」
「ありがとうございます。では当初の打ち合わせ通り、ただちに現状宙域から離脱してください。本艦はこれより全力でそれを支援します」
「うむ。健闘を祈る」
「幸運を」
通信はそれで途絶えた。
グランド・カナルの艦橋は緊張で包まれている。悲愴な顔をしている者もいる。だが、皆がこの場で何を成すべきかを心得ていた。彼らは同盟軍における良心だった。彼らはその瞬間、自らの命を諦めた。それは国家のためではなかった。自分の職、人を守るというその誇りのために。
「敵有効射程まであと5秒、4、3、2??」
「ファイア!」
フェーガン艦長の声が響き渡る。スクリーンに死の光が疾る。
「敵艦からのレーザー砲来ます!」
艦に衝撃。
イヴリンは近くの手すりに必死に捕まる。慌てて磁力靴のスイッチを入れる。艦に穴が空いたとき、吸い出されないようにするためだったが、艦が沈めば気休めにしかならないだろう。フェーガンは踏ん張って声を上げている。
「ビーム防御中性磁場の耐久度86%に低下!」
「右方敵艦ワルキューレ発進を確認。続いて左の敵も艦側面の放出カタパルトの作動確認!」
「こちらのスパルタニアンを出せ!」
悲鳴と怒号
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