情報戦の海
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これには事情がある。セレブレッゼ中将は後方勤務本部の次期本部長と目され、つまり裏方の中心として軍の兵站を管理していくはずの人間だった。その役割は大きく、特に戦場における物資輸送や調達能力、などの事務処理能力に長けていた。その彼が軍から抜ける、ということで当然上層部は強く慰留を促したのだと言う。風の噂には、後方勤務本部次長の席まで用意しようとしたが、すげなく断られたたらしい。そこで政府は、国家的非常事態における最終的局面にはその手腕を借りる、という妥協点を示し、結果完全な退役ではなく、予備役中将となったのである。
その結果、お役御免になったイヴリンは、年明けからキャゼルヌの元で副官見習いをやっている。それはフロルにしても、安心だというものだった。あまり人には言えたことではないが、自分の恋人が戦場に出て来る、というのはあまり心臓に良い話ではないのだ。もっとも、そんなことをイヴリンに言えば軍人としての矜持を持っている彼女に失礼だろう。だが理性と心情は別物なのだ。
「ふむ、そういえばキャゼルヌ准将が過労で倒れたと聞いたかね」
「な!?」
フロルは初耳であった。だがありえないことではない。つい一か月前に大規模なイゼルローン攻略戦があったばかりで、今回の帝国の侵攻である。経済的な観念からも、また人材的な観念からも、過度な無理がかけられたであろうことは想像に容易い。まして兵站がなければ軍事行動はなりたたず、後方勤務本部は帝国の遠征がわかってから半月、目の回るような忙しさであったろう。
だが倒れたということを知ったのは、ハイネセンから旅立ち、第5艦隊の旗艦リオ・グランテに乗り込んでからである。恐らく、キャゼルヌがイヴリンに口止めしたのであろう。そういえば、ここ一週間は電話でのやり取りすらなかった。そんな暇がないほど、忙しかったに違いない。さきほどはイヴリンは安心、と思ったフロルだったが、どうやらそうでもないらしい。
「苦労が祟ってな。まぁ2、3日もすれば治るとのことらしいが、そのせいで後方が混乱しとるようじゃ。まだ、問題はなさそうじゃが」
フロルはすぐにあの事件のことを思い出した。
グランド・カナル号事件である。
兵站の混乱から生じた軍需物資の不足を民間からの購入で賄おうとした結果、起きた惨劇。原作ではあの時、既にキャゼルヌがそれなりの地位を得ていたにもかかわらず、まずいことになったのは、過労のせいだったのだろう。
「一応、艦隊において物資の節約を促しておきましょう」
「うむ、いざ戦場で物資が足らん、などというのは困るのでな」
ビュコックは頷き、フロルはその手配をした。娯楽品などの配給を通常より制限し、エネルギーの消費も抑えるように指示をした。もっとも食料だけは通常通りである。食、というのは軍隊において非常に大きな
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