情報戦の海
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要不可欠であり、それを誘導するために報道機関とその形態は歪に発展を続けていた。その一つに、軍人賛美があるだろう。それは個人として、英雄としての偶像的軍人賛美である。ブルース・アッシュビーもそうであったように、若者が高位の階級にまで昇進した、というだけで世間は放っておかなかった。
現在、もっとも人気があるのはヤン・ウェンリーだろう。
前年、参加していたヴァン・フリートの会戦において、いくつかの作戦案を提出した功績が認められ、年が明けた1月、准将に昇進していたのである。
27歳での准将、というのは本当に早い出世というべきだったし、何より<エル・ファシルの英雄>なのだ。月日は経っても、かつて膨大な名声を手に入れた男に対する世論の好感度は高かった。もっとも、それを祝いにヤンの家を訪れたフロルは、
「別に昇進したいわけでもないんですがね。年金をもらうため、そして何よりユリアンと私が食い扶持に困らないために、給料が上がるのは嬉しいですよ」
というまことにヤンらしい言葉を聞いた。そういう奴だ、ということをフロルはよく知っていたし、むしろヤンがヤンらしいままであることをフロルは喜んだ。
だがそんな暢気なフロルも、最近はマスコミに追われる人間となりつつある。官舎の電話にマスコミの取材依頼が舞い込むことも増えて来たし、彼を特集しようとする新聞社や雑誌の存在も、フロルは気付いていた。
「まずいな、そりゃあ」
フロルはデンホフ基地の士官専用ラウンジで、バグダッシュ大佐と会っていた。顔を会わせる場所としては、最適の場所である。ここは大佐以上の者しか入れぬ特別な場所で、他に人の姿はない。
「やっぱり、そう思うか」
「ああ、フロルはこれでも情報部の人間なんだぜ。名簿には一切載ってないが、今の情報部第三課はあんたが切り盛りしてるようなもんなんだ」
バグダッシュは愚痴に聞こえそうな口調で言い放ち、コーヒーのマグカップを傾けた。フロルはラウンジから見える外の景色を見ている。
この前年、フロルとバグダッシュはグリーンヒル裁可の元、情報部に新たなセクションを立ち上げていた。情報部第三課。それが公式には存在しない同盟の新たな諜報機関である。彼らは誰も本気でやろうとはしなかった情報の管理と運営を引き締めるため、厳選な人員のスカウトによって所属メンバーを増やし、それを全宇宙に放った。それが、既に一年前のことである。それからの半年間、彼らの配下はまったく連絡を寄越さず、ただ潜伏先に馴染むことを職務とした。
そしてその半年後より、情報の収拾を始め、先の宇宙暦794年暮れに、敵外諜報員の排除を仕掛けたのだった。
諜報員を消す、というのは情報戦において非常にリスキィな選択肢である。敵にこちらの動きを悟られる、という不利もあったが、何より敵である
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