帰郷
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カリンを寝室に運んで行った。フロルは自分の母親の元を離れようとしないエリィを見ながら、父の書斎のドアをノックする。ややあって声がして、フロルは部屋に入った。
レイモンが目を赤くして、ワインを飲んでいた。ボトルを見ると、相当の品物だったが、レイモンは何も言わず静かにそれを飲んでいる。
「父さん……」
「今でも思い出すよ。イザベルが家にやってきた日のことを。おまえは喜んでなぁ。一緒に寝るんだって言って、犬小屋で一緒に眠っていたんだ。覚えているか?」
「ああ、覚えているよ」
「それからもうこんなに時が経ったとはな。そりゃあそうか、おまえさんが軍人になって、准将になるくらいだもんな。俺もアンナも、年を取るさ……」
「まだ、生きててくれよ。孫の顔を見せるまでは」
「もうカリンちゃんで充分だよ」
レイモンはそう言って再びワイングラスに口を付けたが、目をやったフロルの表情から、何かを読み取ったようだった。静かに、笑みを頬に浮かべる。
「そうか、おまえにもそういう相手ができたか」
「二つ年上の、同じ軍人の人だよ」
「それはめでたいな。イザベルも、喜んでいるだろう」
「母さんにはまだ言ってない。まずは、父さんにと思って」
レイモンは静かに頷いたが、ふと、気になるように
「カリンはどうするんだ?」
「イヴリン……、俺のパートナーだが、彼女はカリンとも仲がいいよ。三人で一緒に暮らすことになると思う」
「そうか、それはよかった」
「今度、連れて来る」
「美人か?」
「母さんには負けるよ」
フロルの答えに満足したように、レイモンは声もなく笑った。立ち上がって、自分よりも大きくなったフロルに歩み寄り、抱きしめる。その力は、フロルが戸惑うほど強い。
「幸せになれ、フロル」
「ああ」
「おまえはいつも、自分を犠牲にして周りを助けようとする子供だった。心優しいことは嬉しいが、親としては心配でしょうがなかったんだぞ」
フロルはその言葉に反応したが、言葉に表すことはなかった。彼も、そのことには自覚的だったのだろう。ただ、父親を強く抱きしめただけである。
離れたあと、レイモンはどこか愛嬌のある笑顔で、
「それで、あっちの方はどうなんだ?」
と聞いた。何が、と聞き返すほど、親の心がわからぬフロルではない。
「相性はバッチリだよ。激しすぎて、余計体力がついたくらいだ」
「それは良かったな!」
男同士にしかわからない気持ちを共有しながら、二人は書斎を出た。キッチンから漂ってくる、アンナの料理の香りに誘われつつ。
フロルは泣き疲れたカリンをどうしようか、と思っている。夕食までは、まだ時間がかかるだろう。それまで、彼女を見守ってやろうと、フロルはお姫様が眠る二階の寝室に、足を向けた。
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