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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
帰郷
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だ。
 退院後、彼は肩身の狭い思いをしながらも、帝国内の情報管理体制について自分なりの調査を行ったが、それに引っ掛るようなものはなかった。やはり、彼よりもリシャールという男は上手なのだ、と彼は納得した。

 事実を述べると、フロルはまだそこまでの情報網を構築していなかった、だけである。ベンドリングを仲間にしてまだ日が浅く、情報網の拡充もフロルの指示により、フェザーンが優先されていたからである。
 それにはフロルの意図があった。
 イゼルローン要塞は戦争の最前線である。そこで取り沙汰されている機密は、当然軍事関係のものが多かった。そして、それは無論のこと、軍部としては喉から手が欲しい情報ではあったのだが、フロルの目的上、それよりも求めるものがあったのだ。
 それはフェザーンの裏の情報であり、ラインハルトの政略的な秘密であったり、はたまた帝国内部の貴族社会の秘密であったりした。それはフロルが軍人として戦争に勝つ、ということを主眼にして戦っていたのではない、という理由があるだろう。フロル・リシャールの目的は、一貫してヤン・ウェンリーと愉快な仲間たちが生き残らせることだった。始め、それは憧憬によってなされた決意であったが、今となっては、親しい友人となった彼らを死なせるわけには行けない、という悲愴な義務感がフロルを縛っていた。それは未来を知る者だけが得るであろう、感情だったろう。
 そのためには、すべての情報の集まる星、フェザーンがフロルには問題であったし、事実そこから得られる情報量はイゼルローン要塞のそれよりも膨大であった。

 そんなことを知る由もないリューネブルクのとった行動は、不本意ながらフロルの言う通りにすることだった。彼自身はそれに強い不快感を覚えていたのだが、逆に愉快な思いを微かに感じていたことも事実であったろう。彼には自分を見下ろしてたフロル・リシャールという男のことが、妙に心に残っていたのだ。それは面白いおもちゃを見つけた子供の心境に近かったかもしれない。この新しいおもちゃが、いったいどんな性能を秘めているか、リューネブルクは知りたかったのだ。
 そしてオーベルシュタインに会った。
 リューネブルクと同様に、身に異端と異常を秘めた男に。

 リューネブルクは一気にウィスキーを呷って、席を立った。
「オーベルシュタイン大佐、また会いに来る。卿に話してみたいことがある。なに、ただの余興だ」
 リューネブルクはそう言い捨てるとバーから出て行った。彼はもう少し、オーベルシュタインについて調べてから、フロル・リシャールという男について語るつもりだった。
 対するオーベルシュタインは自身に曖昧な質問を投げかけ、消えたリューネブルクについて考えていた。リューネブルクは無能ではない。だが、今回の事件で今度こそ折れたものと思っていたが、
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