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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
帰郷
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の性格と言動が度々他人を苛立たせることを知っており、またそれを利用して来た男だった。彼にしてみれば、怒りに狂った人間ほど扱いやすい者はいない。怒り、はとても直線的な感情だ。その方向さえ見極めていれば、人をいなすことなど容易い、と考えていたのである。
「……卿は、面白い男だな」
 これはリューネブルクの言葉だったが、それは自らにこの男を紹介した、フロル・リシャールに対する感嘆も幾分含まれていた。このような男、少なくともリューネブルクは初めて会うのだ。感情を制御するのが上手い、という程度の男ならリューネブルクを幾人か記憶の名簿に記録していたが、ここまでの男はいなかった。それにこの雰囲気、凡人のものではなかった。
「少将閣下、閣下はいったい私になんの用なのですか」
「いや、卿に会え、という男がいてな」
「それで私にお会いになられたと?」
 オーベルシュタインにはそのような人間、心当たりもなかった。
「卿は同盟のフロル・リシャールという男を知っているか?」
「……知っておりません」
「ふむ」

 リューネブルクは右手で掴んだウィスキーのグラスと、その中にきらめく琥珀色の液体を眺める。
??やはり、フロル・リシャールのスパイは、ここまで達しているということなのだろうか。
 リューネブルクは第6次イゼルローン防衛戦のあと、しばらく入院をしていた。一つに右手が切り落とされ、そのリハビリに時間がかけられた、ということがあるだろう。彼はそのしばしの時間のうちに、自分なりに考えをまとめていた。あの同盟の大佐は、帝国内部でも広まっていない事件を自分より早く掴み取っていた。それはつまり、それだけ非凡な情報網が構築されているということの証左に見えた。そして自分をあの場で殺さなかったことの意図。自分が同盟に不利益をもたらすことの自覚は、多少なりともリューネブルクにはあったから、最初はそれが目的ではないか、と考えた。だが、少ししてそれを却下した。ならば、あの男はここまで高機能な情報網を作り上げる、という一大事業を成し遂げるわけはないからである。彼は同盟の軍人であり、同盟のために情報網を作り上げたなら、自分を殺すのが道理なのだ。
 すると、生かされたのは違う目的が、同盟にとっての不利益よりも大きな利益をもたらす何らかの目的があったはずなのだ。
 そのことについて考えたリューネベルクだったが、結局は答えの算出を諦めた。一つに、自分が権謀術数に長けた戦略家ではない、と自覚していたことにもある。自分は陸戦の専門家であり、そのことに関してならばオフレッサーのような男にも負けない自信があったが、それが艦隊戦や謀略戦になると、自分より勝っている男がいるだろう、とわかっていたのである。
 そしてどうやら、あのフロル・リシャールは自分よりも謀略に長けているらしい、と諦めたの
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