事は動き始める
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事は動き始める
年も明けた帝国暦486年、宇宙暦795年の1月3日。
フェザーン自治領主、アドリアン・ルビンスキーは、その補佐官たるニコラス・ボルテックから報告を受けた。彼にとって帝国、同盟両国の内政外交経済軍事の秘密報告は日課といって差し支えないものであった。フェザーンは軍隊を持たない国家である。彼らは武力でもってその独立を成しているのではなく、情報と、それから生み出される莫大な金の力でそれを保っていた。そのため、フェザーンでは歴代の領主を、血縁ではなく実力でもって選出している。政治形態としてはむしろ同盟のそれに近いかもしれない。だが、権力の集中は帝国のそれであり、更にいえば領主個人の指導者としての能力は両国のそれを上回っている。今、もっとも未来が明るいのはフェザーンであり、つまり彼の星の政治は順調だったのだ。
そんな歴代領主の中でも若さを誇ったルビンスキーも、今年で40歳となっている。彼は端正な顔つきではなかったが、その目つきや顔立ちから彼の雄猛な精力と意志の強さが見て取れた。
その日の報告は、第6次イゼルローン攻略戦の顛末から始まった。帝国軍は数万の戦死者を出したが、同盟軍は帝国に倍する死者をヴァルハラへと送り出した。
よくも、愚かに戦争をしている、とルビンスキーは心中で嗤った。
彼がその中でも特に注目したは、同盟軍の准将、少将級の将官の戦死者数だろう。報告によると、あの皇帝の寵姫、グリューネワルト伯爵夫人の弟が活躍したという。ここ数年、順調に昇格してきた男だったが、どうやら純軍事的な才能もそれなりにあるという。ルビンスキーはその男、ラインハルト・フォン・ミューゼル少将の資料も目を通したことがあった。さすが皇帝の寵姫の弟、顔の出来は人並み以上だったが、どうやら才覚もそれに相応のモノがあるらしい。先の戦いの戦功によって、中将に昇進したという。もっとも今はまだ数千隻程度の指揮官である。いったいどこまでの将器があるのかは、今後次第、ということだった。
この情報から読み取れるのは、それだけではない。同盟軍の弱体化が先10年ほどで深刻化するだろうということも、わかるのだ。恐らく今、同盟軍上層部は頭を抱えているに違いない。軍隊でもっとも深刻な事態は、能力のない人間が将兵を率いることだった。
獅子の率いる羊の群れは、羊の率いる獅子の群れに優するという。いかに同盟に無能が揃っていたとしても、その程度の道理はわかっているはずだった。もっとも、ルビンスキーの目から見れば、帝国も、同盟も、羊に率いられた羊の群れであり、つまりは五十歩百歩というところであったが。
次に報告されたのは、2月に帝国がアスターテ方面に進軍するという情報である。
「ご苦労な事だな。3万5千隻もの討伐軍を、皇帝の戴冠30周年の記念のた
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