事は動き始める
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か。
フロルは中尉から大尉に昇進する時、一般よりも早く昇進した。フロルはそれが政治家の圧力と疑っていたが、その推測を裏付けた言葉であった。
「は、ありがとうございます」
「君は私のことをどう思う?」
「……今後、国を背負って行く責任ある愛国政治家、かと」
それはフロル流の皮肉、というものだった。トリューニヒトは国を背負いはするものの、無責任に国を売り払った売国政治家なのである。だが、悲しむべきことに、それはトリューニヒトの一般的評価に近い。
「ふむ、どうやら高く評価されているようだね」
だがトリューニヒトはそれを見抜けなかった。一つに、自分の客観的評価がフロルの言った通りだと考えていたせいもあるが、よもや初対面の人物が強烈な悪意と皮肉を自分に抱いているなどとは考えられなかったせいもあるだろう。
「君は今の軍部をどう思う」
トリューニヒトは質問を一歩進めた。
「どう、と言いますと?」
「今の軍部はどうにも覇気に欠けている」
「我々は民主国家の軍隊です。覇気はいらないでしょう」
「そういう問題ではない。今の軍部は権力を持ちすぎている、と言っているのだ。そのくせここ数度の戦闘で勝利を得ることもない。国民には、勝利と叫んでいるがね。私はね、リシャールくん、国防族の議員として軍を強く支持しているし、国民を鼓舞もしているが、今の軍部は気に入らんのだよ」
「……はい」
トリューニヒトは微笑する。否定の言葉が出てこなかったからである。
「君はそのことについてどう思う?」
「軍の手綱を政府が握るのは、文民統制の基本であります。軍の暴走は暴力の発露と同義です。それは防がねばなりますまい。ですが、軍隊の権力を抑えんとして、軍事力が弱体化しては、同盟の滅亡に繋がりかねません。さじ加減が肝要かと」
「なるほど、正論だ」
トリューニヒトにしてみれば、許容の範囲である。一般的に多少気の利いた軍人なら、考えることだろう。
フロルはわざと、平凡な意見を言ったつもりだったが、トリューニヒトは良くとってしまったようだった。
「では君は名誉の戦死を遂げられたホーランド大将についてはどう思う」
「彼は自信と実力に溢れた人間でした。ですが、どうやら自信が実力を上回ってしまったようですね」
「ふむ、なかなか鋭い観察眼だ」
トリューニヒトにしてみれば、自分に好意的な人間を褒めることに労力は厭わないのである。相手が自分の味方になれば、彼の思惑通りなのだ。
だがフロルはトリューニヒトのシンパに入るつもりはなかった。だが、かといって目の敵されることも避けたい、というものである。優柔不断、というわけではない。トリューニヒトには組さない。組すれば、将来反逆者の共犯とされるからだ。だから、中立を保たんと、当たり障りのないことを言っ
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