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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
事は動き始める
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許された特権かのように胸を張ったが、フロルにとっては滑稽という話である。そしてフロルも誰に会わされるか、察知はついていた。


「やぁ、フロル・リシャール准将。こうやって会うのは初めてだね。知っての通り、私は国防委員長のヨブ・トリューニヒトだ」
「はい、存じております」
 返すフロルの言葉は無難、の一言だったろう。特別、媚を売りたい相手ではない。フロルにとってトリューニヒトは煽動政治家(アジテーター)で裏切り者のクソ野郎なのだ。もっとも、今の段階でそれを知っているのはトリューニヒト本人とフロルだけである。社会人として一応の礼儀を有するにしても、それ以上のことはしたくなかった。関わりたくないのである。
 だが、外面だけは立派だ。長身で姿勢の良い美男子で、服装や動作は洗練され、行動力と弁舌に優れた頼れる中堅政治家。今後同盟を担って行く次世代の指導者。トリューニヒトを修飾するいくつもの美辞麗句も、外見だけは適切に表しているようだった。 

「リシャールくん、君はなかなか興味深い人間だ」
 パストーレを下がらせて、パーティーの人ごみの中で二人だけになるトリューニヒトとフロル。フロルはその意味をよく理解していた。トリューニヒトはフロルが欲しいのだ。
「ありがとうございます」
「君はあの、ヤン・ウェンリー(エル・ファシルの英雄)の一つ先輩だそうだが、その彼よりも先に昇進をしている。もっとも、今までの軍歴において彼ほど目立った功績があるわけではないのだが、なぜだか手堅く昇進をしているようだ。不思議ではないか。『いつの間にやら昇進している』とある軍高官の言葉だ」
「小官は自分の本分を全うしているだけです」
「いや、謙遜はいい」
 トリューニヒトは人当たりのよい笑みを浮かべる。フロルが大嫌いな笑みだった。

「君は個人的功績が立ちにくい時にこっそりと功績を立て、自分は全体の中で隠れて動いているように見える。まるで極力目立たないように、と気をつけているみたいだ」

 トリューニヒトの指摘はフロルにとって苦しいものだった。フロルは転生者という素性から、あまり大っぴらに活躍することを避けていたのだ。一つに、それによって本来の歴史が狂いすぎれば、フロルのアドバンテージが減ってしまうから、というのもあったし、フロルはヤンを補佐したいとは思ったが彼を従えたいなどと考えたことはないから、というのも理由だった。だが、事実だけ見れば、フロルはヤンをも凌ぐエリートなのだった。

 不幸にも、イゼルローンでの若手喪失が、今になってフロルを目立たせることに繋がっているのだった。

「いえ、小官は??」
「だから謙遜はいいのだ、リシャールくん。私は君を高く評価している。パストーレくんの下で働いていた頃からね」
??やはりトリューニヒトの差し金だったの
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