事は動き始める
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り越えるのは好ましくないのだ。
「慣例は絶対ではないが、確かに望ましい結果ではない」シトレは同じことを言う。「しかし、どうにも適当な中将がおらんものだ。だいたいの者は、既に各々の部署で中核をになっている。これを引き抜くというわけにも行くまい」
「では、やはり今少将の者が中将に昇進するまでは……」
「うむ、そこで一時的に第11艦隊は宇宙艦隊から外す。防衛部の守護部隊に編入させ、これにルグランジュを当てる」
「確かに、星域の守護部隊の司令は少将でもいいでしょう。ですが、同盟の所有する艦隊数が減ってしまいますが?」
軍人とは基本、より多くの軍事力を求めるものである。それが戦時中ならばなおさら、というところである。更に、総力戦を訴える政府中枢からしても、それは受け入れられないのではないか、とグリーンヒルは考えたのである。
「それに関しては問題ない。他の艦隊は今も厳然と存在している。実はな、この案は国防委員長からの意見なのだ」
さきほどの電話が、それであった。
グリーンヒルがこの言に驚いたのは当然である。現在の国防委員長はヨブ・トリューニヒト。彼は主戦派の重鎮として中核を成し、軍人であるグリーンヒルから見ても過剰と思える国粋主義を唱えていた。
「彼には彼の思惑があるようだ。しかもこの件、どうやらあのリシャール准将が動いているらしい。先日の新年パーティーの時に、な」
シトレは彼のシンパからの情報で既にそれを知っていた。フロル・リシャール……。なかなかどうして、あんな優男然としているが、やっていることは過激であった。最近は情報部に公式には存在しない第3課を設立し、それの拡大と充実を図っているという。これは統合作戦本部長だから知っている事実であった。だが、関係者以外でその存在を知っている者は、情報部長たるグリーンヒルを除いて同盟軍でも10人もいないだろう。
だがそのことを聞いてなかったらしいグリーンヒルにはこれにも驚いたような顔をした。それはシトレにとっても意外であったが、フロルの秘密主義もどうやら徹底しているらしい。シトレはフロル・リシャールという男を士官学校の時から目にかけていた。純軍事的才覚ならばあるいは後輩であったヤンやラップといい勝負かもしれなかったが、それ以外の才能、謀略などの分野で必須な腹黒さ、二面性といったものがあの男には備えられていた。フロルにはフロルという人格と、それとは全く違う裏の顔があることを、シトレは微かに嗅ぎ取っていた。もっともそれに気付いている人間は、ほとんどいないはずだった。それにはフロルのことを長いこと知り合っていなければ、気付くことはできないだろう。フロル・リシャールは奇妙な男だった。それはシトレにも見当のつかない、違和感だった。
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