休息の日
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いつ頃?」
「10歳の時でした」
マルガレータは目に哀しみを滲ませる。
「親御さんと?」
「いえ……家族は亡命の途中で、事故で……」
「そうか……ごめん」
フロルは確信した。この少女は、マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーだ。ファミリーネームが違うのは、暗殺の危険性を減らすためだろう。ヘルクスハイマーの名は大きすぎるのだ。
「いえ、気にしないで下さい。私、こっちに来て結構楽しくやってますから。同盟って思ったより楽しい国ですね。友達がたくさんできて、毎日が楽しいもの」
少女は無理をしたような笑みを浮かべているが、その何割かは本当だったろう。彼女は10歳の頃、同盟で一人生きていく決心をしたのだ。それから2年間、何が彼女を待ち受けていたかはわからない。だが、笑える、ということは辛いことばかりではなかったのだろう。
「家は軍官舎なのかい?」
「……叔父が同盟軍中佐です。亡命した時、私以外に生き残ったただ一人の家族。ハルトマン・フォン・バウムガルデン」
そしてこのハルトマンがベンドリング少佐なのだろう。幼いマルガレータ嬢の後見人になるために、帝国を裏切り同盟に亡命した心優しい青年。帝国では死んだことになっているから、偽名を使っているのかもしれなかった。
「叔父さんは?」
「第6次イゼルローン攻略戦が終わったから、その事後処理です。私のために、軍の後方勤務を志願してくれてて……」
「今日の夕ご飯は?」
「何か、宅配でとろうと思います」
同盟で亡命者として生きていくことの、苦難なのかもしれなかった。ベンドリング少佐はこの二年で一階級しか昇進してない。給与は十分かもしれないが、友達付き合いが多いというわけにはいかないだろう。楽な仕事ばかりというわけにもいくまい。
「それなら、家に来ないかな? カリンも喜ぶだろうし」
マルガレータはその言葉に、ぱっと顔を上げた。喜色が走る。だが、躊躇。どうやら他人の家でご飯を頂くのが申し訳ないと思っているようだった。
「一人分くらい、増えたってどうってことはないよ。それに美味しいケーキもあるし」
さらに心が揺らいだようだった。カリンのことだ。きっとフロルの菓子作りの腕は、学校でも宣伝しているに違いない。やや、時間をおいて、マルガレータは頭を下げた。よく考えれば、10歳になるまで、人に頭を下げられることしか経験していなかった貴族令嬢がよくぞここまで同盟に適応できたものだ。ちょっとした物腰だけでは、彼女が亡命者とはわからないだろう。この小さな女の子の苦労が忍ばれた。
「俺とカリンの家はE《エコー》地区なんだけど、君は?」
「G《ゴルフ》地区です。結構近いですね」
「そうだね。……もし、これから自分一人でご飯を食べなきゃ行けないときがあったら、その時は俺とカリンの家に
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