第6次イゼルローン攻略戦(4)
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室に入り、一人考えていた。キルヒアイスは撤退する艦隊の処理を任せている。奇襲によって、また百程度の艦を失ったのだ。損害は無視できない。
だが功としては十分過ぎるだろう。戦局は再びラインハルトによって劇的に変化し、帝国は勝利を得たのだから。
??あの抜群に巧妙なタイミングに仕掛けられた奇襲攻撃。
??我が艦隊が天頂に移動することを見越した、兵の配置。
??本来の目的を忘れず、すぐに撤退できる将としての有能さ。
そんな男が何人もいるわけはない。
あれは……もしや第5艦隊のあの男なのではないか?
俺を罠に嵌めた、あの男。
ラインハルトは一人、窓から宇宙を広がる星々の瞬きを、睨んでいた。
「ああ、今回は働きすぎたよ」
フロルは同盟軍本隊と合流すると、彼の艦隊の帰還処理を済ませ、薔薇の騎士連隊のところへやって来たのである。
目的は酒。
疲れたときは、飲むのが最良の手段なのだ。
ヤンもアッテンボローもキャゼルヌも戦いが終わって、今が一番急がしい時期なのだろう。フロルはそう考えて、わざわざ薔薇の騎士の艦に来たのである。
「随分と活躍したそうじゃないか、リシャール准将」
「戦地任官だよ、シェーンコップ」
「いやいや、今聞いた話じゃそのまま正式に准将だろうさ」
「まぁもらってもいいくらい、働いたよな」
シェーンコップは疲れて管を巻いているフロルを見て、苦笑する。
「なぁ、フロル。俺はあれだけリューネブルクのバカ野郎を嫌っていたんだが、不思議と今は怒りを感じない」
??それはヴァレリーを殺されていないからだ。
とフロルは言いそうになって、言葉を飲み込んだ。この世界では、シェーンコップは大切な女性が傍らにいるのである。彼の精神は、平静に保たれているはずだった。
「まぁ、いちいち去っていった人間に未練を残すのも変だろうさ。それが女ではなく男なら、なおさらね」
フロルは机に突っ伏しながら、そう言った。シェーンコップはその言葉に何かを感じ入りはしなかったが、己の感情に一応の理由付けをしたつもりで、満足したのである。
「ああ、作戦参謀としてうろちょろしなきゃよかった。暇だと思われたのかなぁ。なぜかみんな、厄介事を俺に寄越すんだ」
「まぁ暇なだけよりはマシだろうがな」
シェーンコップの慰めは慰めにもならない類のものであった。フロルも、誰かしらに愚痴を言いたかっただけであって、本気でうんざりしているわけではない。
フロルのおかげで、同盟の損害は少なくて済んだのだ。ただ惜しむべくは、ラインハルトの命を奪えなかったことだ。もしかしたらラインハルトは既に自分が知っている彼から進化しつつあるのではないか。
彼は怖かった。
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