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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第6次イゼルローン攻略戦(4)
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れば、蛍の大群が急流に乗って疾走するように、見えたかもしれない。指揮統一を欠く追撃戦は、必ずと言っていいほど加速し暴走する。しかも、馬鹿馬鹿しいことに、たった二千隻を三万隻が本気で追い、それを鋭い巧妙な逆撃で出血を強いられ、それにますます猛り狂って、これを殲滅せんと逆上するのである。
 この狂態を正気に戻したのは、一人のオペレーターだった。
「見ろ! イゼルローン要塞を!」
 それは報告というよりも、悲鳴というべきであったろう。そしてその意味を理解しえない者が存在し得ない類のものであった。イゼルローン要塞の液体金属装甲に、充填されつつあるエネルギーの白い紋章が、忌々しく浮かび上がっていたのだ。
 雷神《トゥール》のハンマーが、ついにその存在意義を主張し始めたのである。驚愕と戦慄は、軍の隔たりなく、瞬く間に全将兵を駆け巡った。

「キルヒアイス! 全部隊、急速上昇せよ。回廊の天頂方向へ、全速力だ。天井に貼り付け!」
 ラインハルトでさえ、余裕を持ち合わせなかった。キルヒアイスが伝達した命令は、一寸の躊躇なく伝達され、実行された。ラインハルトの艦隊に倣うように、同盟軍の艦艇も必死に回廊周縁部へ回避する。


 新たなオペレーターの叫びは、まさにその時に上がった。
「敵小艦隊、右翼側面より強襲!」
 それは、フロル准将率いる敗残部隊1500隻であった。
 光の暴力が炸裂するのと、ラインハルト艦隊に攻撃を受けた衝撃が奔ったのは、ほぼ同時であった。



 時は1時間ほど遡る。ラインハルトの作戦を見抜いたフロルは、己が率いる艦隊でもって、ラインハルトが通るであろう宙域を見つけ出し、つまり自身で同盟軍の守りが薄い宙点を見付け出し、そこを駆け抜ける、という実験をしたのである。それはラインハルトを待ち伏せるためだった。
 その結果、フロルが通った場所を、ほぼ一時間後ラインハルト艦隊が通り抜ける、という喜劇が生じたのだが、ラインハルトはそれを知る由もない。
 フロルはラインハルトの思考をトレースし、彼の人格を考慮し、最終的に来るであろうポイントを探し出し、艦隊を隠しておいたのだ。ラインハルトは尋常の者ではなかったが、フロルもまた無能からは遠かった。



 そして雷神《トゥール》のハンマーが使われ、ラインハルトが天頂方向に来た瞬間を、横から奇襲したのである。
 それはフロルの卓越した軍事センスの表れであった。ラインハルトは一瞬にしろ、完全に隙を突かれたのである。だが、ラインハルトを救ったのは、ロイエンタールとミッターマイヤーであった。
 彼らは少数の艦隊を率いている。つまり、それだけ運用が楽であり、また不慮の事態に対する反応が速いのだ。両准将は右側面からの攻撃を一瞬で理解し、装甲の厚い艦を右に寄せつつ、協同してフロル艦隊の中央
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