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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第6次イゼルローン攻略戦(4)
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、そうロボス元帥に伝えた。だが時は既に彼らを裏切っていた。何事かの対策をするには、時間はなく、そして手段も失いつつあった。
 これは恐らく敵の作戦通りなのだ。敵の指揮官は2000隻の小艦隊をもって、数倍の同盟兵力に対抗し、これを翻弄している。単なる小細工の名手で、1000隻単位を動かす程度の器量なのだろうか。それとも……それとも……。

??もしかしたら、あの部隊の指揮官は、先月、回廊でとり逃がしたあの敵将と、同一人物かもしれんな。

 そう思ったとき、グリーンヒルの体内を、絶対零度の戦慄が疾って回った。彼は一つ身震いすると、助言を求めて周囲を見まわした。彼がこの時もっとも期待していた人物、ヤン・ウェンリー大佐は何かを考え込むように、黒のペレーを握りしめている。

 この時、ヤンが何を考えていたのか、というとそれはフロルのことであった。既に戦況は、自分の作戦の選択・実施の及ばぬところに行ってしまい、もう今回は出る幕はないだろうと見限って、操作卓《コンソール》の上に両足を投げ出し、寝ようとしたのである。そしてその瞬間、フロルの言葉を思い出したのだ。なぜ、フロル先輩はあんなことを、あのタイミングで言ったのだろうか。彼はそれを考え始めていたのだ……。

「ヤン大佐!」
 その彼に声をかけたのはグリーンヒル大将であった。ヤンは思索から浮上し、すぐにグリーンヒルの前に歩み寄った。
「は、なんでしょうか」
「ヤン大佐はあの敵、あの2000隻の小艦隊の指揮官をどう思う」
「恐らく、回廊で仕留め切れなかった”小賢しい敵将”と同一人物でしょう」
 ヤンは即答した。それはグリーンヒルの息を止めた。やはり、ヤンもそう考えていたのである。彼はその時のヤンの言葉を思い出していた。

??大魚を逃がすことがなければ幸いです。

 そしてフロルが深夜、私の部屋に来て放った言葉。

??万全を期して、あの敵を斃さねばなりません。一隻の出し惜しみもしないで下さい。
??あの敵は、尋常の者ではありません。

 それに対して、私はいったいどう考えていたのだろうか。あの小艦隊を逃した、とヤン大佐から報告を受けても、ただの包囲戦の失敗としか考えなかったのではないか。だが、あの指揮官は非凡すぎる。もしや、将来、同盟の大いなる敵になるのではないか。
 ヤンはグリーンヒルの顔に現れる恐怖にも似た感情を、冷静に見つめていた。あれだけの将才を持った者が、他にいるわけはない。そして、今後同盟の前に立ちはだかることは、確実なのだ。
 その時、二人の考えを他人が知ったならば、心配のしすぎだと、一笑に付したであろう。だが、少なくともそれは、嘘とは遠い地平にある予測だったのである。





 艦外では、一秒ごと両軍が高速に動いていた。神からの視点でそれを見
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