第6次イゼルローン攻略戦(4)
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うにせよ。卿らにとって他の途《みち》はないのだ。これを銘記せよ!」
従わなければ命はない。これほど麾下の将兵たちにとって過酷な命令はなかった。古代の軍師は言った。もし、自らの将兵に全力の働きをさせたいならば、彼らを死地に追いやることである。そうすれば彼らは、生き延びるために彼らの持ちうる全力を出すであろう。孫子の言葉をラインハルトは図らずも実践していたのである。
将兵達はそれに従った。彼らの将が、つい先月までは無敵の艦隊であったことを思い出した者もいたのだろう。フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト大佐などは、「顔がとびぬけていいんだから、頭がそれにつりあっているよう祈ろうぜ」と、漆黒に塗装された自分の乗艦で、部下たちに語ったものであった。
部下たちの反応は、ラインハルトを満足させた。彼の望むように彼の艦隊は動くだろう。
ロイエンタール、ミッターマイヤーの艦隊もまた、彼を満足させた。両准将は噂に違わぬ手腕で、その麾下たる艦隊を運用している。今や、ラインハルトの艦隊は一つの有機生物のような綿密な結束を有していたのである。
「だが、もし見殺しにされたら……」
その可能性は皆無ではない。同盟軍がラインハルト部隊を蹂躙するを良し、とするのも帝国軍の選択肢には含まれるのである。
「もしミュッケンベルガーがその手段を採るとしたら、奴の冷酷さはゴールデンバウム王朝を救うことになるな」
それは皮肉が籠った事実であった。この輝ける若者は、ゴールデンバウム王朝の凶兆そのものなのである。彼がここで死ねば、それだけゴールデンバウムは長生きできるのだ。
だが帝国軍は、将来の帝位纂奪者を援護するため、指揮系統の混乱した同盟軍に対して、攻勢に出た。その光景を戦術スクリーンで確認して、ラインハルトは、我が意を得た。
この時、帝国軍を指揮していたのは、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将であった。彼は醜く艦首を翻し、ラインハルトを追わんとする同盟軍に対して、後輩から距離をとって砲戦をしかけたのだ。これ以上の混乱を避けつつ、同盟の勢力を削ごう、としたのだった。
それにまともに対応できたのは、第5艦隊だけのようなものだった。第5艦隊は柔軟に後退しつつ、殿を務め、最小限の戦力でメルカッツ艦隊の攻撃をかわし続けた。老練、の言葉で表現される名将の、それは戦いであった。一寸のミスも若さによる綻びもない艦隊戦は、その様相を帝国軍の追撃戦に変化させつつあった。
「あの部隊を追うのは結構、イゼルローンから撤収する契機となります。ですが、あくまでも帝国軍との接近戦状態を持続しませんと、雷神《トゥール》のハンマーの好餌となってしまいますぞ。戦いつつ、敵をひきずるのです」
グリーンヒル大将は、ヤン大佐の、そしてまた大将自身の意見を
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