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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
第6次イゼルローン攻略戦(3)
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おまえはあの”小賢しい敵”さんがこのまま大人しく下がってくれると思うのか?」
 フロルは席を立ちながら聞いた。そういうことなら、一刻も早くロボス元帥の元に行き、将兵と艦隊??かりそめの預かりものだが??を掌握せねばならない。彼らと楽しくお茶を飲むという暇もないだろう。それに、考えようによってはこれはチャンスだ。ラインハルトを討つチャンスかもしれないのだ。一秒は一粒の砂金より貴重だった。

「なんだ、もう行くのか?」

 キャゼルヌなどは突然立ち上がったフロルに驚いたようだったが、フロルの真面目な顔を見て、神妙な顔になった。フロルが変に積極的になったり、真面目になるときは、いつも問題事が起きる時なのである。ヤンやキャゼルヌ、アッテンボローなどは、それをフロル独特の第六感か何かだと思っていただろう。
 その時のフロルは、史実よりも少ない艦数でラインハルトがあの無謀な敵中突破をするとは、考えられなかった。つまり、本当にラインハルトが来るのか、理性では来ないと考えていたのである。だが、彼の奥底に眠る何か、言葉に言い表せぬ直感が、彼に危急を告げていた。

「ええ、嫌な予感がするんです」
 フロルはそのまま食堂から出て行こうとした瞬間、振り返ったヤンを見た。ヤンはフロルの言葉を自分の中で考えていたようだが、視線に気付いて顔を上げた。

「なんですか? フロル先輩」
「ヤン、例え戦況がどうにもならなくなっても、艦橋でダラしなくするなよ。いいか、足を机に載っけて眠ろうとしたり、椅子の上であぐらをかいたり、絶対にするな。おまえは大佐だ。大佐は佐官最高位なんだ。人の上に立っている自覚を、忘れるな」

 それだけ言うと、フロルは今度こそ食堂を出て行った。残されたヤンたちは、フロルの真面目な口調と真面目な説教に、思わずお互いの顔を見合わせた。一体、なんなのだろう。あまり人に説教をするのは嫌いな男だったはずだが、フロル・リシャールという男は。だが少なくとも、あと数日間は忘れられぬ珍事になったのである。





 フロルはラザール・ロボス元帥に出頭し、概ねヤンの言った通りの命令を受け取った。また戦場における緊急処置として、野戦任官でフロルは准将になった。野戦任官とは、戦場で指揮官が足らなくなったなどした時に、その場を凌ぐまで一時的上の階級を与える、というものである。つまりその急場を凌げば、元の階級に戻るというものであったが、功を立てればその例ではない。

「貴官のことは、グリーンヒル大将に聞いたのだ、リシャール准将。准将級の者はことごとく己の所属する艦隊の元で艦隊を率いている。大佐階級で一番マシな者を、と聞いた結果、こうなったのだ」

 ロボス元帥は、まるで恩を着せるような言い方でフロルに言ったが、それはフロルにとってはどうでも良かった
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