第6次イゼルローン攻略戦(2)
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かった。だが、そこまでだった。彼はリューネベブルクに興味を急に失ったように、それに背を向けて立ち去ろうとしたのである。
瞬間、リューネブルクの左手が背中に伸びて銃を掴んだ。だがその銃口がシェーンコップを捉えるより先に、フロルの右手の銃がその拳銃を撃ち抜いた。
「無駄な抵抗はやめることだ、リューネブルク少将」
フロルは見守っていた一団から足を踏み出しつつ、リューネブルクに近づいた。銃は一寸の狂いもなく、リューネブルクの頭に向けられている。リューネブルクは突然現れた役者に驚いたように、一瞬目を見開いたが、すぐに嘲笑を口に浮かべた。
「その顔は見たことがないな。貴様、薔薇の騎士か?」
「正確には薔薇の騎士見習いだな」
「いつから薔薇の騎士は素人の研修所になったんだ? シェーンコップ連隊長?」
シェーンコップは背を向けたまま、振り返らず、遠ざかって行く。
「なら試してみるか? 俺の銃の腕が、貴様の頭を撃ち抜けない程度だと思うならな」
リューネブルクは沈黙した。
「捕虜になりたいか、リューネブルク少将」
「ふん、殺せばいい」
「俺は人殺しが嫌いだ」
「ならば俺は偽善者が嫌いだ」
「……まったくだな。だが、おまえが死んでもエリザベートは喜ばんぞ」
フロルの言葉はリューネブルクの神経を急激に刺激したようだった。悪くなる一方であった顔色が、一瞬で激情に染まり、リューネブルクは立ち上がった。
「貴様!」
「君の妻であるエリザベートは、殺人罪で拘束された」
フロルの言葉は、理性を吹き飛ばしたリューネブルクを落ち着かせるだけの効果があった。
「貴様、なぜその名を知っている!」
「同盟軍を侮るなよ。情報部は何も戦局考察だけやっているわけじゃないんだ」
フロルは多少の誇張をもってこれに返した。フロルとバグダッシュが入念に慎重を重ねて作り上げたスパイ網、情報網はまだ発展途上期にあったが、リューネブルクに心理的揺さぶりをかけるには、これくらい言う必要があったのだ。
「リューネブルク夫人は実の兄であるハルテンベルク伯を殺したそうだ。かつて自分が愛した男を手にかけた者より、それを謀って抹殺した者に対して、彼女は憎しみを向けたようだな」
フロルは周りに人がいなくなったのを確認しながら、力なく立っているリューネブルクに言葉を紡ぐ。呆然とした表情でそれを聞いている彼の目には、絶望とも怒りともとれぬ感情が渦巻いていた。
「つまらん人生だな。女につられて亡命して、そんなことも知らんで死ぬか。そう思わなんか、リューネブルク?」
その言葉に対するリューネブルクの返答は沈黙であった。フロルを睨む眼光は強くなる一方である。
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