第6次イゼルローン攻略戦(1)
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、雷神《トゥール》のハンマーの射程限界を正確に測定し、その線上を同盟軍3万隻が軽快に出入りして敵の突出を誘う。これは艦隊運動として技術的難易度の極点であり、タイミングが一瞬でもズレれば、みすみす雷神《トゥール》のハンマーの一閃に、全艦隊が撃砕されてしまうに違いない。これを完璧に制御するソフトウェアは、極めて高度と言わざるを得ないだろうが、それは芸術的な贅沢と無駄に溢れており、軍隊としての完成形を、必ずしも体現してはいない。
要塞から出撃した帝国軍は2万隻。3対2の戦力差の中、互いに主砲を斉射し、火蓋は切って落とされた。数万の光の線が宙空を貫き、爆発光がスクリーン上で明滅する。
同盟軍の狙いはこの艦隊主力3万隻を囮に使って、ホーランド少将率いるミサイル艦部隊3000隻が死角よりイゼルローン要塞に接近、ミサイルの雨を降らせるというものであった。駐留艦隊2万隻は主力との戦闘によって、それに対応することが出来ず、もしも引き上げる動きを見せたならば、第5次イゼルローン攻略戦のさながらの並行追撃作戦に移る算段であった。
他方、帝国軍はD線上まで艦隊を進め、火力の応酬をしつつ、要塞砲射程内に同盟軍を引きずりこもうとしたが、自分たちまで要塞主砲に巻き込まれてはたまらないため、凹形に近い陣形で中央部を空け、敵の艦列を収束させつつ引き込もうとしている。このような極度に難易度の高い艦隊技術の競い合いが、戦端から2時間も続いたのである。
フロル・リシャール大佐は予想通りの索敵情報を手に入れたあと、急ぎ自らの所属する第5艦隊旗艦リオ・グランテに移った。艦隊司令官、ビュコック提督に会うためである。第5艦隊は予備兵力として後方で待機中であった。
「おう、リシャール大佐」
ビュコックは現れたフロルに対してそう話しかけた。フロルはすぐに敬礼をする。ビュコックもまた、座ったまま答礼をする。その目は前方で行われている艦隊同士の押し合いを見ていた。だが、フロルの顔を見て、何かを感じ取ったようだった。
「先日は、狐を仕留め損なったそうじゃが」
「はい、あれは大魚でした」
フロルは顔に悔しさを滲ませながら、そう答えた。ビュコックもまた、戦闘報告書を読んでいるので、かの敵の異常性は既に知りうるところである。
「それで、あと15分ほどでミサイル艦部隊が突撃を開始するのじゃが、いったい何かね? 我が艦隊の投入はまだ先になるじゃろうが」
「気になる小部隊があります」
フロルは持って来た情報端末を、リオ・グランテ艦橋にあるスクリーンに接続した。いくつかの操作ののち、敵の戦力配置図が現れる。これは彼らが予備兵力として前線より離れた位置にいるために、手に入った情報だった。前線の艦隊では、目の前にいる敵に対処するので精一杯で、落ち着いて戦力配置を眺めている余裕
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