後悔と前進
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、彼らの間に上下関係はほとんどないと言ってよかった。階級はともに大佐。フロルはシェーンコップの陸戦能力に全幅の信頼と尊敬をしていたし、シェーンコップもまた、フロルの軍人としての有能さを認めていた。当初こそ、互いに名字であったが、シェーンコップは既にフロルをファーストネームで呼び捨てであったし、フロルもシェーンコップを呼び捨てにすることが多い。
「シェーンコップの考えそうなことだ」
フロルはそこで鼻から息を漏らした。呆れている、というのではないだろう。むしろその剛胆さに言葉がない、というところだった。
「それで、認めて下さりますかな?」
「それを考えていた」
フロルは軍帽を脱ぐと、両手で弄び始める。
「シェーンコップはリューネブルクを殺したい」
「ええ、もちろんね」
「だが、俺は殺したくない」
シェーンコップはフロルの言葉に思わずぎょっとした。シェーンコップはフロルという男を知っていた。人間として甘いところのある男だったが、軍人としての職務は果たす男である。必要があれば、男であろうと女であろうと、敵兵を殺せる男だとも知っていた。その彼が、一度は彼を死地に追いやった張本人を殺したくないと言うのだ。
「……どうやら小官には存じ上げぬ事情があるようですな。いったい、なんだってあの男を生かしておきたいんですかな?」
シェーンコップは動揺を皮肉で包んでフロルに投げつけた。
「リューネブルクは怖い男だ。君たちから話を聞いていてわかったよ。あれは触れれば触れるほど、毒になる。敵に回すと、非常に厄介な男だ。有能なだけではない、あの性格も非常に嫌らしいね」
フロルはシェーンコップを半ば睨みつけるようにしながら、顔だけは穏やかに言う。シェーンコップもふてぶてしい笑みを浮かべて、それを見つめ返す。
「だが、毒だ。そしてその毒は、まず何より帝国に先に回るだろう。あの男は敵としてよりも、味方に持つのが避けたくなる男だ。帝国側で生きていれば、きっと帝国を中から蝕んで行くだろう」
「では、やめろと?」
「だが、それでは君たちの気持ちが収まらないだろう? それに、リューネブルクに一言言ってやりたいのは、俺も一緒だ。だから、出撃は許可する。ただし、俺も部隊に同行する。そしてリューネブルクと戦ってもいい。だが、殺さないでくれ。手足の一本切り落とすのはいいが、殺しちゃあいけない」
シェーンコップは幾ばくかの沈黙を口の中で転がし、考えた。確かに、あの男は帝国にいる限り、帝国の害となるだろう。そしてあの男の人間性からして、俺が殺さなくとも、いつか惨めな死に方をするに違いない。
そこまで考えてシェーンコップは心中で笑った。フロルは下手をすれば、シェーンコップよりも残酷なのではないか、と思ったのである。フロルはリューネブルクと帝国軍中枢との
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