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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
後悔と前進
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半ば潰走の状態で帰還したのだ。彼はその戦果報告書を手に取って眺めた。そして思わず声を失った。それはどちらに対する驚きであったろう。ミュッケンベルガーは同盟軍と称する叛乱軍が、一定以上の軍事的能力を有しており、それが一時的にもラインハルトのそれを上回ったことを、正確に読み取ったのである。だが、それを挽回したラインハルトの凹面回避運動の、なんと奇抜なことか。ラインハルトでなければ、この包囲網から逃れるのは至難であったろう、と彼は心中で考えた。それは実に気に入らない考えではあったが、それが正しいであろうことも、彼は気付いていたのである。
 ミュッケンベルガーは重々しく彼の副官に、ラインハルト・フォン・ミューゼル少将の出頭を命じさせたのは、それから30分後のことである。



「ラインハルト・フォン・ミューゼル少将、参上致しました」
 ラインハルトはその絢爛な金髪をわずかに揺らし、見事な敬礼をした。その姿をもしも芸術家が見たならば、描写し表現したいと心より望んだであろう芸術的完成度を持っていた。だが無論、それはラインハルトの一側面であり、彼の頭蓋骨の中に込められた能力に比べれば、瑣末なものに過ぎなかった。
「ミューゼル少将。卿は今回の出撃によって、畏れ多くも皇帝陛下より賜った軍艦及び臣民を失うこと甚だしいものである。これについて、卿の弁明を聞こう」
「弁明はありません」
 ラインハルトはその形の良い唇を引き締めて、そう言い切った。
「ほう」ミュッケンベルガーはわずかに目を見開いた。「すると、いかなる処罰にも甘んじると?」
「小官麾下の艦隊が半数もの被害を得たのは、ひとえに小官の無能の成すところであります。部下にはなんの落ち度もありません。そのことは誰よりも小官が理解しております」
「軍人としては見上げた態度であろう」
 ラインハルトは内心、このミュッケンベルガーの言葉に驚いていた。姿ばかりが勇剛な男が、形はどうあれ、自分を認めるような発言をしたからである。彼は帝国において誰よりも革新的な脳髄を秘めていたが、自分に敵する者に対する憎悪や偏見もまた、過剰に持っていた。それは彼の苛烈な性格に由来するものもあったろう。彼の姉が帝国という亡霊に奪われてのち、彼は帝国の貴族を憎み嫌っていたのだ。
「だが、信賞必罰は軍における鉄則である。卿には十日間の謹慎を申し付ける」
 それは軽すぎる罰、というべきであった。ラインハルト自身、オーディンの強制帰還も半ば覚悟していたのである。だが、これは図らずも彼の立場によって与えられた罰であった。彼は己の軍事的才覚によって地位と権力を上り詰めることを求めていたが、彼が望むも望まぬも、彼の立場がそれを大いに補助していたのは紛れもない事実であったのである。それほど、寵姫の弟というのは、特別なものだったのである。ミュッケ
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