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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
狐を罠にかけろ(下)
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突撃! 至近距離まで一気に突っ込め! 怯むな! まだ終わりではない!」
 キルヒアイスは敬愛する自分の友の指示を信じて、即座に復誦した。ラインハルト様が負けるわけはない。我々が二人いる限り、進む道に完敗の2文字はないのだ。





 フロルはこちらに突撃するラインハルト軍を見て息を呑んだ。ここで突撃だと? これでは死ぬだけではないか。
「敵艦隊! 突っ込んできます! は、速い!」
 オペレータが悲鳴を上げた。フロルは目を疑った。ラインハルトは砲撃距離を無視して死兵の勢いで突撃している。これではまともに撃ち合うことも出来なくなる。敵艦の爆発にこちらまで巻き込まれるのだ。
 そして、フロルはラインハルトの意図を察知した。それは、常識を真っ向から無視したものだった。
「艦隊を後退させろ! これでは砲撃が出来ん!」
 チュンは指令を飛ばした。これはやむを得ない指示だった。そしてこれがラインハルトの作戦だった。敵は眼前であり、その一瞬だけ双方の砲撃が止んだのだ。そしてフロルは次の展開が読んだ。
「敵艦隊、我が艦隊目前で左舷回頭します!」
 驚愕の声が上がる。
 前方では艦と艦が擦れ合うほどの距離だった。
 ラインハルトは我が艦隊が包囲せんと凹陣形をとったのを利用して、その凹曲線を使って、まるでスイングバイするかのように包囲がまだ完成されていない左方向に艦隊を向け、それを逃がしたのだ。


 20分後、全艦隊が合流した時、ラインハルトの艦隊は逃げ切った後であった。敵艦隊は恐らく半数を失ったであろう。だが、フロルはまたもラインハルトを逃したのだった。


 フロルはコンソールに拳を叩き付けた。

 あと一歩……、あと一歩で敵を逃した。今回はフロルがグリーンヒルに働きかけたおかげで、戦力も十分に揃っていた。その窮地を、まさか凹陣形をあのように利用して脱するなど、誰が思いつくというのか。あの場合、あれは確実に間違いではなかった。あれを好機をして利用するラインハルトの奇計、それはフロルを驚嘆させ、恐怖させうるに足るものだった。

 フロルは緊張で凝り固まった首を動かし、頭上を見た。スクリーンに映し出された星空は、何事もなかったかのようにその美しい光を輝いてみせている。

 ヤンならば、どうしただろうか。

 フロルはそれを考えていた。
 周囲の人々は、皆小賢しい敵を軽微な損害で叩きのめしたことに、矜持を満たし、手を合わせて喜んでいた。

 その歓喜の中、フロルだけが拳を痛いほど握りしめていたのだった。

 その姿を、一人、チュンが静かに見つめていた。





















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