狐を罠にかけろ(上)
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しい敵”をこのまま放置しているだけの度量はないよ。いい加減、誰かがこれを叩こうとするだろうさ。ヤン、おまえもたまには働け」
フロルはそう言ってヤンの肩をぽんと、叩いた。それにはフロルのヤンへの信頼が、籠っている。ヤンもそれに気付いていた。
(やれやれ、仕方ない。紅茶のお礼分は、しっかり働くか)
彼はそんなことを考えていた。
小賢しい、とは、ラインハルトに対する過小評価であるが、とにかくその存在を認識したことは、確かな事実だった。言わば味方である帝国軍よりも先に、敵方の同盟軍がその存在を重視したというのは、戦場の皮肉であった。ロボス元帥より指示を受けた参謀長、ドワイト・グリーンヒル大将がそれに留意して対策を指示したのは、彼の地位と権限からいえば当然というところである。だが彼には、まず何よりもイゼルローン要塞本体への攻撃計画を検討し、決裁し、改良し、実施する責務があった。そのため誰かに、「こざかしい敵」への対処をまかせようと思ったのである。
そこに現れたのは、ヤン・ウェンリー大佐であった。グリーンヒル自身も、総司令部にて「むだ飯食らいのヤン」と呼ばれているヤンに、この案件を託してみようと思いついたところだったので、いささか驚いたのである。
「ヤン・ウェンリー大佐であります」
ヤンはまるで似合わない服を身につけながら、敬礼をする。これでもちゃんと敬礼しているつもりなのだが、フロルあたりと比べるとどうしても似合わないのである。
「ヤン大佐か、ちょうどよいところだった。今、君を呼ぼうと思っていた所だ」
総司令部の中で唯一、グリーンヒルは参謀たちの中に、かつてエル・ファシルの英雄と呼ばれた男がいることをしっかりと記憶していたのだった。否、他の高級幕僚たちも記憶はしているのだが、無視しようとする傾向があったのだ。あの時、図らずも彼は妻子を、この風体の上がらぬ男によって救われている。少なからずその軍事的才覚に目をかけているというところだった。もっとも、ヤンを見る度に、彼が功を上げて昇進して来た軍人には見えないと思っていたが。
「は、私も総司令部にこれを提出しようと思っておりました」
ヤンはそう言うと、手に抱えていた資料を提出した。それはフロルに急かされて、一日かけて作った敵の小艦隊に対する作戦案だった。
グリーンヒルはそれに目を通しながら息を飲んだ。それはまさに、今からヤンに任せようとしていた作戦案だったからである。その作戦案には、敵の行動パターンより次に使われる戦術として、側面逆進・背面展開がありうることを調べ、さらにラインハルトの出撃地点を分布図にして行動パターンを解析したのであった。仕上げとして、合計一万隻におよぶ兵力配置図まで示してある。およそ、万全を期した隙のない作戦である。
「
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