狐を罠にかけろ(上)
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点において自らの行動に不安を持ち合わせる必要がなかっただけであった。無論、フロル自身も、周りの大半よりは多少有能だと思っていたが、ラインハルトやヤンなどに比べればそれも霞む程度だと理解していたのである。
「だから、ヤン、おまえさんに助けが欲しくてな」
「助け、ですか?」
ヤンは困ったように顔をしかめた。そして軍帽も被っていない頭をかいた。
「敵さんが次に現れる宙域と作戦、それを俺なりにある程度絞り上げた」
フロルはヤンにズボンの後ろポケットに突っ込んでいた資料を渡した。ヤンは丸まったそれを広げ、その内容に目を通しながら、心中で感心していた。正直、ヤンが考えていたこととほぼ等しい内容だったのだ。もっとも、よほど時間に急かされたらしく、内容は使えるレベルではなかったが、それだけでもフロルの能力がヤンにはわかるというものだった。
「ええ、やはりフロル先輩も、敵が戦術パターンを片っ端から試していると思いますか」
「そりゃあ、あんだけ手を変え品を変え、翻弄してくれればな、嫌でもわかるさ」
フロルは肩を竦めながら、足を組んだ。真面目に考えているようなヤンの顔を見る。ヤンは軍人という職業を誰よりも嫌いながら、誰よりも有能だ。そしてこいつのこんな顔は、誰かがけしかけるか、尻に火がつかない限り見られないのだ。
「まだ宙域は算定できていませんが、おそらく次の戦術パターンは側面逆進・背面展開あたりだと思うのですが」
フロルはヤンの言葉に無言で頷いた。彼はその言葉が正しいことを、知識から知っていたからである。言わば彼はズルをしてその事実を知っているだけだが、恐ろしいのはこのヤン・ウェンリーという男だ。彼は相手のラインハルトのことを全く知らず、伝えられて来る情報から、ラインハルトの性格、軍事的思考、果ては艦隊運用の癖まで読み取っている。
「うん、わかった。じゃあ俺がいる艦隊を囮に使ってくれないか?」
「先輩を、囮ですか?」
「ああ、おまえが算出した宙域で、わざと孤立して囮になる。そこをどうにかして敵を倒せるよう、作戦案を作ってくれ」
「私が、ですか?」
ヤンは資料に視線を落としていたが、それを上げてフロルの顔を再度見た。
「ああ、俺はおまえさんを信用している。できるなら、おまえさんがそれを総司令部に提出しておいてくれ」
「私が?」
ヤンは同じ言葉を繰り返した。それは彼が驚いて頭を使っていないということの証左でもあったが、何より彼にはフロルの意図がわからなかった。だが、数瞬後、おそらくこれは怠けている自分に対する一種の抗議だと、思い至った。無駄飯食らいと呼ばれる自分に、仕事をさせるつもりなのだ。
「わかりました。作戦案を作ってみます。ですが、採用されるかは別ですよ?」
「それはそうだ。だが総司令部だって、この”小賢
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