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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
士官学校
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があるということかね」
「ええ、そうでしょう」
 シトレはそこで、ふとフロルという男の特異な点に思い至った。この男は周りの人間に、こいつは負けない、と思わせているということを。これは将軍として、いや人の上に立つ者としては決してなくてはならない資質である。この人間といれば勝てる、そう思える将を兵は心より望むのだ。


「後輩諸君、戦いはどうやって勝つか、ではないぞ」フロルは笑みまで浮かべながら、そう切り出す。「勝てばいいのだ」
「そ、そんなことは知っています!」
「いいや、知らないね。君たちは今の戦いをどうみている? ヤンが一方的に攻め込まれ、ワイドボーンがそれを圧倒しているとでも思ってるのか?」

 こうなると、もはやフロルの独壇場だ。

「いいか、何も好戦的な敵に対する時、こちらも好戦的になる必要はない。臆病な相手に対する時、こちらも臆病になる必要もない。必要なのは、相手を見極め、相手の考えを読んで戦うことだ。遥かかつての軍師は言った。『敵を知り、己を知れば、百戦危うべからず』ってな」
 フロルはそこまで語ると、手元のコンソールに手を伸ばす。すると、ディスプレイにあるデータが出てくる。
「見ろ、これが今日の試合のヤンとワイバーンの戦績だ。どちらも無敗だ、当然だがね。だが艦の損耗率を見ろ。ワイドボーンはヤンのダブルスコアだ」
「こ、これはワイドボーンの敵が強かっただけだ」
 生徒の一人がそう叫ぶ。

「バカを言うな! おまえらが将来、将校として兵の上に立って、作戦を指揮する立場になった時、兵の過剰な死を『敵が強かったから仕方がない』と言うのか!」

 フロルが叫び返した。それは本気の怒りだった。思わず叫んだ生徒が竦む。
 ラップもこれには驚いていた。フロルはなかなか怒らない温和な性格なのだ。彼の怒りの、そのあまりの熱さにラップも思わず背筋がざわめいた。

「バカにはバカの、アホにはアホの戦い方がある。防御に徹する敵には、戦略的に無意味な消耗戦を仕掛けず、その防御を崩す一点に全兵力をつぎ込む。こちらを殲滅させようと包囲網をもくろむ敵には、包囲網を形成する前に敵を攻撃し、それを阻む。そして、だ」
 そのとき、コンピュータが勝利判定の電子音を発した。
 フロルを見ていた生徒が、今更のように試合に視線を戻す。


《判定:勝利者、ヤン・ウェンリー》


「こちらを叩こうと必死な敵には、その補給を断ち、その限界点をひたすら待ち、そしてその飽和点で叩きかえせばいい。何も正面決戦だけが勝利じゃない。バカな踊りを一人で踊って気持ちがよくなってる頭でっかちには、それでいいんだ」
 それが、その試合の締めくくりとなった。

 そのあと、ワイドボーンの取り巻き達は気まずそうに観戦室を去って行った。ラップはヤンを出迎
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