士官学校
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た同盟史、銀河連邦史、旧地球史などの歴史書を譲ると申し出たのだ。そしてまさしく、ヤンにとってこれ以上惹かれる餌はなかった。
もっとも勝ち進むにつれ、
「自分はなんだかとんでもない詐欺にあってるんじゃないだろうか」
という気がしていたという。
事実、フロルには考えがあった。彼は誰よりも早く、戦史研究科が廃止になることを知っていたのである。これは原作知識であったが、ヤンは恐らくもうしばらくすると、校長によってその旨を知らされるであろうことを知っていた。フロルにとってヤンが今後もちゃんと活躍してもらうためには、科の廃止後、戦略研究科に転向してもらわねばならないと思っていた。そのためには、ヤンに用兵家として才があることを、周りに示さねばならないと考えていたのだ。今のヤンの用兵はまだ一流に洗練されているとは言えないだろう。だが、今後2年間、戦略研究科でそれを学べば、ヤンは誰よりもその知識を有効に活用できるに違いない。いや、できるのだ。
だからこそ、の優勝なのである。
ちなみに、フロルは戦略研究科だった。ヤンが転向したら、いろいろと便宜を図る気まんまんである。
「おお、見ろ、あのワイドボーンの芸術的な艦隊運動」
「凄いな、波状攻撃か。艦隊を二つに分けて時間差で陣を交換し、敵の急所を突くのか」
「見ろ、いつの間にか別働隊がヤン艦隊の背後に迂回しようとしている」
「凄いな、さすがワイドボーン」
「ヤンなど始めに補給部隊に攻撃したあとずっと逃げてばかりじゃないか」
「攻めるだけの余裕なんてヤンにないさ」
「今まで勝ち残ったのだって、ただのまぐれさ」
「ワイドボーンの負けだな」
最後の言はフロルのものであった。周りでワイボーンを賞讃していた彼の取り巻きは一斉にこの先輩士官候補生を目にやった。ワイドボーン万歳の空気が、いきなり絶対零度にまで温度を下げたのだ。
「リ、リシャール先輩! 冗談はやめていただきたい! どうみてもワイドボーン候補生の方が優勢ではありませんか!」
「そうだ! ヤンは逃げっぱなしじゃないか」
「このままならヤンが負けるに決まってる!」
周りの生徒はこの変人と名高い男に批難を浴びせる。彼らにとっては自分より劣っている(と彼らは思っている)ヤンが優勝者になってもらっては、矜持が保てないのである。万が一でもあってはならない事態であった。そういう低次元での心理的嫌悪感に加え、試合の形勢判断コンピュータも、すべてワイドボーン優位を指していた。
シトレとラップはこの流れを、外野から興味深く見守っている。
「ラップ君、彼に加勢しなくていいのかね?」
「ご冗談を、校長。私が出て行っても何の役にも立ちません。先輩はああ見えて、負ける喧嘩はしない男ですからね」
「喧嘩を売ったからには、勝つ自信
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