漫然たる戦端の訪れ
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官席においてあった紙袋から、誰が作ったのか、サンドイッチを取り出して一口食べた。フロルはこのチュンという男が、パン食以外のものを食べるところを見たことがなかった。チュンはその風貌から、『パン屋の二代目』などと言われ、彼自身もそれを嫌っていないのだが、さもありなん、というところである。
「それにしても」
フロルは対面する帝国軍艦隊をスクリーン越しに見つめながら呟く。
イゼルローン回廊の同盟側入口に現れた同盟軍艦隊36900隻は、指揮官ロボス元帥の指揮の元、周辺における制宙権を確保するため、小戦闘を連続させることになった。戦闘は五〇隻から三〇〇〇隻ほどの単位で、立方体に区切った数千の宙域を、ひとつひとつ争奪する形で行われた。単なる前哨戦というには、双方が傾けた努力は、質量ともに小さくない。この後につづく戦略的状況を少しでも有利に導かねばならなかったのだ。それはまるで不毛なオセロだった。いつまで続くかわからぬオセロ。そして悪質なことにそれが浪費しているのは、時間やエネルギーだけではなく兵士の命だったのである。
フロルは前面の敵に圧力をかけながら、また一ブロック、制宙権を獲得した。だが、それはフロルやチュンの功績というほどではなく、ただの作業の結果であった。
だがフロルはそれだけではなく、密にされた連絡網から回って来る、戦場全体の戦局を見極めていた。今の所、同盟はじりじりと、当初の目的通りイゼルローン要塞に近づいている。そしてこのままで行けば、11月末には、イゼルローン要塞に辿り着くはずであった。
(だがこの戦場には奴がいる)
フロルは丸めた人差し指を、軽く噛み締めた。
彼が考えていた人物は一人、ラインハルト・フォン・ミューゼル少将。
フロルがヴァンフリート4=2の基地で、仕留め損ねた敵である。そして、同盟最大の敵。彼はことあるを知って万全を期してラインハルトを迎え撃ったが、倒せなかった若き天才。
ここ数日の小規模な戦闘で、水際立った戦果を上げる敵の小部隊を、同盟は察知していた。艦隊全体として、わずか3000隻程度の小艦隊など、本来ならば無視していい程度の戦力であった。だが、その小部隊が立て続けに自軍を負かし続けるに至って、さすがに無視を決め込むわけにもいかなくなったのだ。今では食堂や作戦室の端々で人の口に上る帝国の危険人物。
フロルはヴァンフリートにおいてセレブレッゼ中将を守ったため、今回の出征においても、ラインハルトは准将のままだと考えていた。だが、フェザーン経由で届けられた敵将一覧には少将とあったのである。フロルはしばしの時間考え、そして気付いた。恐らく、キルヒアイスの昇進が、ラインハルトに回ったのだと。前回のヴァンフリートにおいて、リューネブルクは基地を破壊する功で少将に昇進し、また皇帝の申し付
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