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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
漫然たる戦端の訪れ
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を見分ける才があったのだ。そしてあのとき、彼は確実にフロルにそれを感じていた……。
「まぁいい。今度の不毛な攻略戦から帰って来たら、彼に接触すればよい。役に立つなら引き込み、立たんなら冷遇する。それだけだ」




 チュン・ウー・チェン少将は、自分の視界の端に立っていた士官が、まるで背中に氷を入れられたように震えるのを見て、怪訝そうに視線をやった。アレクサンドル・ビュコック中将麾下チェン分艦隊所属幕僚長、フロル・リシャール大佐であった。
「どうしました、リシャール大佐?」
「いえ」フロルは盛大なしかめっ面をしながら姿勢を正す。「猛烈な悪寒が背中を走ったもので」
「ほぉ」
 チュンはそれを聞いて面白そうに笑った。
「きっとリシャール大佐のことを誰かが噂話でもしているのでしょう」
「そう……でしょうか」
 フロルは首を傾げる。今の寒気がいったいなんだったのかはわからない。だがそれは明らかに良いものではなかった。まるで背中を蛇が通ったように、気味の悪い悪寒だったのだ。
「もしかしたら君の家で待っている女の子の恨みかもしれませんよ?」
 チュンはビュコックから、フロルに扶養者がいることを聞いていたのである。チュンにも家族はいる。軍務によってなかなか帰ることが叶わない彼であったが、それでもフロルと同じく、彼らの星に守るべき人々がいることには変わりなかった。
「恨み、ですか」
 思い当たるものがないわけではない。それ以前にフロルにしてみれば、カリンという年頃の女の子が考えていることなど、まったくと言っていいほど見当がつかないのだ。フロルは戦略家としても戦術家としてまた謀略家としても常人のそれを上回る手腕を秘めていたが、ただ一つ、ヤン・ウェンリーと同じように女の子の機微には疎いのだ。だからフロルがカリンと接する際には、持てる限りのすべての愛情と優しさを傾けているつもりだった。不器用ながらも、フロルはカリンを家族として愛していたのだ。
 愛する、といえば彼のパートナーのイヴリン・ドールトンだったが、彼女は今回ハイネセンに留守番である。セレブレッゼ中将の退役に伴う事務仕事の処理だった。イヴリンはフロルとともにいられぬことを残念がっていたが、フロルにしてみれば安心というところだった。また前回のような危険がないとは言い切れない。ここは戦場で、いつもどこかで人の命が散っているのだから。

「まぁ、あまり不吉とか思わないことですよ」
 チュンは渋い声で飄々として話す。
「よく戦場で何か縁起の悪いことが起きると騒ぎ立てる人がいますが、逆に戦闘の前に厄祓いできたと考えればいいのです。戦闘前に厄が祓えたから、本番は大丈夫、とね。まぁ、つまり、心の持ちよう、というやつですな。こればっかりは気にしてもしかたありません」
 チュンはそう言うと、指揮
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