漫然たる戦端の訪れ
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高さによってもたらされる旨みに群がる者だけだった。
「では、サンフォードが議長に?」
ネグロポンティが額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながら言う。
「そうだ。そして私も国防委員長になるだろう」
そこにいる者達はみな声を漏らした。
「さすがですな、トリューニヒト議員」
エンリケ・マルチノ・ブルシェス・デ・アランテス・エ・オリベイラは自分が味方している若手議員の出世に満足していた。同盟自治大学において一介の教授であった彼が学長にまで上り詰めたのは、トリューニヒトの政治工作のおかげだった。彼は教育界における重鎮としてトリューニヒトを学術界から支え、トリューニヒトはオリベイラを政治的に支えていた。この二人における力関係は他の議員とのそれとは少しだけ違ってはいた。だが、トリューニヒトが主導権を握り続けている点においては他と変わらない。
「国防委員長だよ、オリベイラくん」
「これは失礼」
「それで、憂国騎士団の設立はどうなったかね?」
「は、現在秘密裏に団員を集めている段階です。もうすぐすれば、トリューニヒト委員長を影から支えられるだけの組織になるでしょう」
「頑張ってくれたまえ」
トリューニヒトにとって、世界は思うがままだった。彼は自分が権力を欲しいままにする、という欲望に関してだけは、他の追随を許さぬほど強大であった。それほどの権力欲を持ち合わせる者ならば、かつての同盟にもいただろう。だが、不幸にも彼ほど有能な者はいなかったのである。もしも彼の能力が自らの権力追求に用いられず、同盟存続のために活用されていたならば、歴史はまったく違う様相を見せていただろう、というのは後世の歴史家たちの共通する意見だった。
「パストーレくんも軍部において権力を増しつつある。今度の戦いが終われば、中将にしてやれるだろう。パエッタくんも私たちには好意的だ。ドーソンくんも我々には忠実だが、まだ軍部においての力は大したことはないだろう」
トリューニヒトは自らの持ち駒としてしか周りの人間を見ていない。それは彼が強烈なまでに自分を評価しており、周りの人間よりを優越していると信じていたからである。彼はナルシストであった。だが、有能なナルシストであった。
「エル・ファシルの英雄は……どうやら私には懐かないようだ」
「では、パストーレの腰巾着であった??」
「リシャールくんか。確か、彼の大尉昇進を早めてやった恩があるはずだな」
トリューニヒトは赤褐色の髪を持った優男を思い出していた。あの男は私と初めて会ったときにも、ごく普通に握手をしてきた。あの頃のトリューニヒトはそれほど権力を持っていなかったからであろう。一議員として接していたはずだった。だがトリューニヒトはフロル・リシャールの瞳の中にある意志の強さを感じ取っていた。トリューニヒトは自らに有益な人物
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