平穏の終わり
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いのである。イゼルローンは外部からでは落ちない。それはヤンもフロルも同意見だったのである。
「君には苦労をかけるな」
シトレは憂いを視線に混ぜた。
「いえ、これが仕事ですから。給料分はね」
フロルはヤンの言葉をわざと借りた。シトレはそれに気付いたのか、苦笑してみせる。
「配属は君が元いた第5艦隊にしておいた。ビュコック提督からのお願いでな。チュン・ウー・チェン少将の分艦隊だ。そして、これは君が望めばだが」
「なんでしょう?」
「薔薇の騎士連隊を君の下に付けよう」
シトレは油断ならない目でフロルを見つめている。恐らくここ数ヶ月でフロル・リシャールが薔薇の騎士連隊と浅からぬ縁ができたことを知っていたのであろう。いかな気がいい連中でも、帝国亡命者の集団、更に歴代の連隊長の不名誉ならざる記録によって、未だに警戒されることも多いのだ。
「喜んで」
フロルはそれをものともせずに快諾した。彼らは自分の戦友である。望めばこそ、拒みはしない。
「ではそうしよう。しっかりと手綱を握るように」
「振り回されぬよう、頑張ります」
そうしてフロルはシトレ元帥の執務室を出た。
次に彼が向かったのはビュコック提督の司令官室である。第5艦隊にまた、お世話になるのだ。挨拶をしなくてはならないだろう。
「お久しぶりです。ビュコック提督」
「うむ、貴官も元気そうだな」
「はい」
フロルはこの好々爺とも言うべき老人を見て、ある種の安心を抱いていた。今までの上官であったセレブレッゼ中将は悪い人物ではないのだが、部下に安心感を与えてくれる軍人ではなかったのだ。
「チュン・ウー・チェン少将は士官学校で教授をやっておってな」
ビュコックは手元の資料に目を通しながら言う。
「まぁ、なかなかに有能な男じゃ。貴官も伸び伸びできるじゃろうて」
「いえ、この数ヶ月で存分に羽は伸ばしました」
「では、その羽を有効に活用して欲しいもんじゃな」
ビュコックはそこで軍人としての顔を一度崩した。笑いかけたのである。
「ところで、カリンは元気かね」
「はい、元気に学校に行ってます」
「そうか、いや、それは良かった」
「ビュコック提督のおうちに、またお邪魔したいと言ってまして」
フロルは困ったように笑う。
「いや、カリンが来たい時はいつでも来てもよい。うちのも、カリンと会うと喜ぶでな」
ビュコックは顎に手を手をやりながら、窓に目線を向けた。眼下にはハイネセンの街並が広がっていた。季節はもうそろそろ秋に移ろうだろう。作戦から返ってくれば、既に春になっているに違いない。
「ありがとうございます」
フロルはここで頭を下げる。彼はカリンに気を使ってくれる者には、いくらでも感謝するの
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