平穏の終わり
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るよう、努力していたといっても過言ではない。だが彼の中で一点忘れてはならないことがあったとすれば、彼は人との繋がりを何よりも重視していたということだろう。誰かの信頼や期待を裏切る、という行為は彼のもっとも嫌うところだったのである。だから彼はその条件の時にのみ、誰よりも積極的かつ能動的に活動し、その結果、彼は今まで少なからず功を上げ、昇進を重ねて来たのである。
同時期、昇進を重ね、また後に歴史において大きな意味を持つことになるヤン・ウェンリーもまた、フロル・リシャールと比較論ぜられることが多い。だがヤンとフロルの昇進は時期こそ似通っていても、内実は大きく違っていたと言ってもいいであろう。フロルは主に人がやらなかったり、またやりたがらなかったりする作業をしっかりこなし、そして常に理に適って真っ当な戦績を挙げて来たが、ヤンのそれはまさに奇功というべきものがほとんどだった。何せ、ヤン・ウェンリーはエルファシルの英雄なのだ。まず、派手さからしてフロルの敵う相手ではない。その点によってヤンはフロルよりも優れている、と無意味な比較を後世の者は多くして来たが、実際この二人はお互いの能力を高く評価しており、また自分の能力は相手のそれに敵わない、と考えていたようである。
「それと、次の第6次イゼルローン要塞攻略戦だが」
「私も、出撃するのですね」
シトレは言葉を遮られたことを微塵も気にせず、また頷いてから手元にあった書類をフロルに差し出した。彼はその書類を斜めに読み進める。彼は昨日までただの一般人同様な平和な日常に居たのである。最高機密である軍の作戦案など知る暇はないのだ。
「……君は、どう思うかね。この作戦案を」
「発案はホーランド少将ですか。いや、そこまで悪い案ではないでしょう」
「あまり乗り気じゃなさそうだな」
「いえ、イゼルローンに穴を穿つ、まではいいんですが、それとイゼルローンを攻略する、というのは別物でしょう。我々があれを完全破壊ないし降伏させるまで破壊する、というのには弱すぎます」
「ふむ」
シトレはすでにその点に気付いていたのか、フロルの意見に感心したように声を漏らした。
「それに、帝国軍に一端の人間がいたら、気付かれるでしょうね。ホーランドのミサイル艦部隊を退けるのには、2000隻程度の小部隊で事足りるでしょう。こちらが敵に対するに万全の対策を施すのはもちろんですが、相手の無能を前提にして作戦を立てるのはいささか軽卒ではないかと」
「だが、この案は通ってしまった」
「でしょうね」
フロルは驚くことなく頷く。彼はこれと似た案がフォーク中佐からも提出されていることを知っていたからである。それにこれ以外といっても、イゼルローンを攻め落とす妙案が浮かぶわけでもない。フロル自身、イゼルローンを外部から攻め落とせ、と言われても案はな
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