穏やかな日々
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うな笑みを浮かべた母親と、父親が写っていたのだから。
ユリアンは父の死後、父方の祖母に引き取られていた。そもそもミンツ家はかつての自由惑星同盟建国者アーレ・ハイネセンの長征一万光年に参加した名家だったのだが、帝国から亡命した平民の子孫だったユリアンの母を、ユリアンの祖母は『息子を奪った女』として嫌悪していた。更にユリアンのことすらも孫とは思わず、『息子を奪った女の息子』と忌避して、母と一緒の写真は焼き捨てられ、父と一緒の写真は何処かに隠されてしまったため、両親を偲びたくても幼い頃の写真は1枚も無かったのである。
それが、今日、唐突に家族三人が写った写真が彼の手元に戻って来た。
「実は……事情があって、僕は母の写真を一枚も持っていなかったんです」
ユリンは流れ落ちる涙を必死に拭いながら、フロルに言う。
「だから、三人で写った家族写真なんて、当然一枚も持ってなくて、それが、あの??」
「その一枚は、ミンツ中尉が、お気に入りの一枚と言って、大切に持っていた写真だ。今、君のご両親は既にこの世界にはいないけど、君の父上は君を大切に思っていたし、写真を見ての通り、君の母上も君を愛していたのだろう。それに君の保護者であるヤン・ウェンリーという奴は、まぁいろいろと困った奴なんだが」
ユリアンは泣きながらも、そこで少し笑った。
「俺の大切な、本当に大切な友人だ。俺が命をかけても守ってやりたい、そう思える男なんだ。だから、あいつを頼む。あいつも、君のことを心底気にかけているだろうから」
「はい……、フロルさん、本当にありがとうございます」
「いや、お礼を言われても困るよ、ユリアン」
フロルは困った、という風に苦笑しながら頭をかく。
「私は君の父上からとってしまった写真を、返しただけなんだから。だけど、大切にとっておいてよかった。君の支えになるなら、本当にね」
ユリアンはその言葉に、さらに涙が溢れて来たようだった。フロルは顔を伏したユリアンの頭をぽんぽん、と触ると、そっと彼を残して書斎を出ようとした。
「あ、そうだ。ユリアン」
ドアのところで立ち止まったフロルは、背中越しにフロルに話しかける。
「あと30分もしたら、おいしいデザートができるんだ。だからその時に紅茶を入れてくれるかな? シロン星の美味しい紅茶があるから、君に入れて欲しい」
「……はい」
「きっと、君の方が美味しく入れられるだろうからね」
フロルはそっと書斎のドアを閉めた。30分後には、ユリアンは笑顔で出て来るだろう。ミンツ中尉直伝の紅茶が飲めるなら、フロルはとっておきのクリームブリュレを作ろうかと、冷蔵庫の中身を思い出していた。
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