穏やかな日々
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って下さい」
「いや、ええっと」
「ヤンは色事には疎いから無理だぞ、カリン」
「そんな言い方されたくないですよ、先輩」
そうやって、賑やかな昼食の時間は過ぎていった。
パスタのあと、イヴリンはヤンに三次元チェスを申し込んだ。カリンはエリィに抱きつきながら、その様子を興味津々と見ている。
そんな中、ユリアンは一人、書斎に呼ばれていた。フロルが誘ったのである。彼は幾分かの戸惑いとともに、フロルの後ろについてった。初対面である中佐が、いったいなぜ自分を呼んだのか、わからなかったこともある。多少の不安がない、のではなかった。もっともヤンがここまで信用している男、という点において彼もそこまで深刻には考えてはいなかったが。
「ユリアン、君はミンツ大尉……いやミンツ中佐のお子さんだね」
フロルとユリアンは書斎のソファに向かい合って座った。そしてフロルが話を切り出した。
「はい。……父を知ってるんですか!」
ユリアンは驚いたように声を上げた。実のところ、彼はキャゼルヌの部下だった父の話を、一通りキャゼルヌから聞いていた。生前の父も、キャゼルヌという上司についてはいくらか好意的な話を息子にしていたのである。だが、このフロルという男について、父から聞いたことはなかった。
「ああ、昔キャゼルヌ先輩の仕事場で会ったことがあるよ」
「そう……ですか」
「ああ、彼が入れてくれた紅茶を飲みながら、いろいろ話したよ」
フロルはその人のことを思い出したような顔をして言う。
「ユリアンという可愛い男の子がいることとか、君のお母さんが既に亡くなっていることとかね」
「そうだったんですか」
ユリアンは突然の話に戸惑っていたが、何より生前の父を知っているフロルに聞きたいことがあった。
「父は……フロルさんから見て、どんな人でしたか?」
「とても誠実で優しそうな人だった。軍人としても有能で、それに気さくな人だったよ。君も知ってる通りね」
フロルはそこまで言うと、ソファから立ち上がった。書斎にあるデスクの引き出しを空けると、手帳から何かを取り出した。彼は大切そうにそれを持つと、ソファに戻って、それをユリアンに差し出した。
ユリアンはそれを恐る恐る受け取った。
それは、ユリアンと彼の両親が写った、写真だった。
「これは!」
ユリアンは心臓が止まったかと思った。
「実は、その時にお互いの家族の写真を見せ合ったんだけどね、間違って私がミンツ中尉の写真を持って帰って来てしまってね。それから返そう返そうと思ってたんだが、結局返せなかった。だから、君に返すよ」
フロルはユリアンを見ながら、優しく言った。
ユリアンは自分の目から零れ落ちる涙を、止められなかった。
そこにはまだ小さかったユリアンを抱いて幸せそ
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