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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
穏やかな日々
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、褐色の肌をもった色っぽい美人がいたり、人形のように可愛らしい女の子がいたのである。ユリアンにしてみれば、初対面ばかりという話で、しかも女の子の可憐さにどきまぎしているというところだった。
 フロル中佐は3か月前に戦闘中負傷して、大変なことになったと聞いていたが、今はキッチンに立って柔らかい笑顔を浮かべている。なるほど、悪い人ではなさそうだ、とユリアンは思った。ヤン大佐も軍人らしい風貌ではないのだが、フロル・リシャールという人はまた違った意味で軍人らしくない。なんというか温和さが彼の顔に現れていて、それが命をかけたやり取りをする人間らしくないのである。大佐が言っていたパテシィエの方がしっくり来る、というのだろうか。だがこの顔で辛辣なことも言う皮肉屋だ、とヤン・ウェンリーは言っていた。それはかなりの毒が籠っていることだろう。厳つい人が毒を吐いてもそれは違和感がないのだが、優しそうな人が放つ悪罵はそれ以上の威力を持つものである。



「ユリアンくんも随分可愛い顔してるのね」
 イヴリンは亜麻色の髪の少年を見ながら、ヤン大佐に言った。昔には男として興味を持ったことのあるヤンだったが、今のイヴリンはフロルしか眼中にないので、何の含みも持たずに話している。
「ええ、保護者よりよっぽど出来た子ですよ」
「へぇ、そうですか」

 イヴリンはここで面白いことを思い出していた。
 トラバース法、というのは成立当初こそ、その合理性や画期的なシステムが話題になったが、引き取った保護者の虐待や血の繋がらない者同士の不和など、多くの問題を抱えた悪法として最近は評判を落としていたのだ。一つに人を殺す、という軍人の職業上、子供を育てることに適さないという根本的な欠陥があったのだろう。
 だが、このヤン・ウェンリーも、フロル・リシャールも、軍人らしくないというところが、保護者と被保護者の間にいい人間関係を築くことに、上手いこと一役立っているようだった。このようなケースは少ないと言えるだろう。ヤンもユリアンも仲が良さそうだし、フロルとカリンは言わずもがな、なのである。

「私は自慢じゃないですが、生活面において及第点をもらえるような男じゃないんですふが、ユリアンが代わりにそういうことをしてくれましてね。とても助かっています」
「おまえさん、体の良い召使いを雇ったということか」
 フロルはキッチンから皮肉る。
「違う、と断言できないのが悔しいですけどね。でも、私は私なりにユリアンの人生を憂いてましてね」
「いつもいつも退役したいと言っている男が人生について語っても、説得力があるようには思えんなぁ」
「……先輩、また皮肉に一段と毒が籠っている気がするんですが」
「そうかな。まぁこの3か月、のんびりとやっていたおかげで元気が余ってるんだろうよ」
 フロル
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